お題︰閉ざされた日記
つまらないな、と思った。封のされた手紙の束を全て開封し終え、疲れもあったのか浅い感想しか出てこなかった。
この手紙の束は古い家を購入し掃除をしていたときに見つけたものだ。宛名も差出人の名前も無くすべてが不明な手紙だが、おそらくこの家の前の持ち主が書いたものではないだろうか。そんなことが分かったところで結局捨てるのだから無意味だけれど。
……捨ててしまうのは、勿体無い気がした。
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「そう、そう、上手ね」と微笑みかけてくれた先生のような人を愛情と呼ぶのだろうか。
こちらはもういい年した人間だというのにまるで小さい子相手にされたみたいだった。
(へ、へへ、なんだかてれくさいな)
にやけながら頭の後ろをガシガシ掻いた。
たかが一つ当たり前のことができただけだというのに褒められて、甘やかされたみたいで、天にも登る心地。
頭の中のモヤモヤがどこかへ弾け飛んで、薬でも消えなかった憂鬱が砕けて無くなった。人に褒められただけでこんなにも簡単に生命力が湧いて出てくる。
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幸せ、かは分かりませんが、ふとあなたのことを思い出します。あなたの背中を追いかけてここまで来ました。あなたの隣にやっと立てると思ったら、あなたは別人になっていて。あまりの豹変ぶりにあなただと認められず、衝動のまま殴ってしまったこと、よく覚えています。
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去年の誕生日は一緒に食事に行った。今年の誕生日は?あれ!今年の誕生日どこにも行ってないじゃない!
と思ったけれど、部屋に飾ってあったくまのぬいぐるみを見て思い出した。そうだ、このくまさんを貰ったんだった。
忘れてるなんて、なんて薄情な奴だろう。
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「正しい自分」を探してるんだろ。目を閉じていると自分が誰だか分からなくなるからなぁ。周りの状況が見えないと自分という存在すら危ういものだ。
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「いろんな味を楽しめる」が謳い文句の小さなケーキ6つセット。どれも似たようなチープな味で、見た目だけが違う同じケーキ6つセット。これをなんと表せばよいか。不出来さ、足りなさ、どれだけ着飾っても同じ味の、滑稽さ。それが恐ろしいほど愛おしい。
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時が止まったように感じる。静かで、誰もいない、なんの変化もない。異世界に飛ばされたみたいで恐ろしい。自分一人しか生きていないなんて、孤独で寂しい。
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朝の静かな空気と薄い空は良いものだ。気持ちがスッと落ち着く。不安と隣り合わせとも言えるが、健康な日は穏やかだと思えるよ。
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あの夜からずっと抜け出せないでいる。僕たちの間ではタブーばかりが増えた。もっと僕が強かったら……そんなことを思う。
何かを見ようとしてやめてしまった。今となってはそれも正しかったのかもしれない。
殴りたいし殴られたい、誰かに罰してもらいたい。哀れだな、僕たち。
今すぐにでも殴ってほしいよ。でも、恋人を犯罪者にしようとするような僕はきっと君を愛していないんだろうな。
1/18/2024, 4:08:04 PM