お題:冬になったら
過ぎる街路樹を横目に、ちらつく木漏れ日にすら焼かれそうで、つんと鼻を刺す北風吸って、解けた靴紐も放ったらかして、歩いて歩いて彷徨って、どこへ行こうというものか。鬱陶しいまま息白き。
お題:はなればなれ
あのころは、心臓も、くっついていたのに。
きがつけば、心臓は、まっぷたつね。
わたしと、あなたは、いっしんどうたい。
あなたと、わたしは、同じ。
細胞、血液、臓器、おそろいだったのに。
こころ、まっぷたつ、あなたと、ちがう。
あなたと、わたし、同じ声、同じ体温。
なのにね。はなれ、ばなれね。どうしてかしら。
同じ脳みそなのにね。
どうして、こころは、たくさんあるの。
はなればなれね。
あのころは、心臓も、くっついていたのにね。
同じものを食べて、ちがう感想を言って、
同じ景色を見て、ちがう感性を磨く。
わたしと、あなたは、ちがういきもの?
あなたと、わたし、はなればなれね。
同じ、脳みそ、なのにね。
はなればなれね。
お題:子猫
「みゃう」
三角座りで蹲っていたときに声をかけられて、ほとんど条件反射で顔を上げた。
「なんだ、ねこかぁ…」
小さな黒い毛玉がぼくの足に擦り寄ってくる。子猫の4本足は白く、靴下を履いているみたいで可愛いと思った。撫でようと手を伸ばすと子猫は足から離れて僕の周りを歩き始めた。思っているよりも細い体で、もしかしたら栄養失調寸前なのではないかと不安になる。
食べ物は持っていないし、お金も全部なくなってしまった。この子に与えられそうなものは何もない。
「みー、みー」
「ごめんよ、何も持ってないんだ」
手を差し出すと子猫が近寄ってきて、匂いを嗅ぎ、ペロペロと手のひらを舐め始める。
「……きみも、追いやられてここに来たのかい」
返事はなく子猫はただ舐め続ける。そっともう片方の手を伸ばして子猫を撫でた。緊張が抜けて、少し駄弁りたくなった。
「ぼくは、弱虫だから、こんなところで蹲ってるんだよ。お金も取られちゃって…………お母さんになんて言い訳しよう……ぼく、ぼくほんとはもっと、今日こそ立ち向かうんだって、き、きめてたのに、うっ……ぐ、うぅ」
ぼたぼた、情けないのに涙が止まらない。
「もっと強くなりたい……」
「みゃう!」
「うわぁあ」
子猫が飛びかかってきて後ろに倒れた。その拍子に、少し遠くに置いてあるダルボールに気づいた。子猫を抱えてダンボールまで歩く。
ダンボールの中には布と「拾ってください」の文字。
「きみ、捨てられたの……?」
「みゃあ」
「……」
「みゃー」
つばを飲み込んだ。深呼吸をした。
「……よし。うちで引き取れないか聞いてみるよ。無理なら……誰か探してみよう」
ここで子猫を見捨てて逃げ出すと、もっと弱虫なぼくになってしまう気がした。
「うちに帰ったらまずお水を用意しよう。それから……猫って何が食べられるんだっけ」
「みー」
とにかく、帰ったら調べて何か食べ物も準備しよう。
「帰ろうか」
「みゃう」
お題:秋風
秋風が目を刺した。
あなたへの愛も尽きた。
凍りを望み、冬に向け涙す。
あなたは知っているだろうか。
そのハンカチが風に溶けることを。
気づいているだろうか。
吹いて、ふいて、黄落して
吹いて、ふいて、落ち葉舞って
吹いて、ふいて、止まって
秋風が喉を刺した。
あなたとの愛も尽きた。
雪解け願い、震え春を待つ。
わたしは知っているだろうか。
あかぎれ作る秋風が止むことを。
気づいてるだろうか。
吹いて、ふいて、吹雪いて
吹いて、ふいて、まって
吹いて、ふいて、とまって
■■
秋風が吹く
――男女の愛が冷めること
お題:また会いましょう
また会いましょう。
明日か、その先か、未来かで。
風の吹く雪山で。
蛇口をひねった水道の前で。
蜃気楼を隔てた向こう側で。
すれ違う列車の間で。
また。