お題:子猫
「みゃう」
三角座りで蹲っていたときに声をかけられて、ほとんど条件反射で顔を上げた。
「なんだ、ねこかぁ…」
小さな黒い毛玉がぼくの足に擦り寄ってくる。子猫の4本足は白く、靴下を履いているみたいで可愛いと思った。撫でようと手を伸ばすと子猫は足から離れて僕の周りを歩き始めた。思っているよりも細い体で、もしかしたら栄養失調寸前なのではないかと不安になる。
食べ物は持っていないし、お金も全部なくなってしまった。この子に与えられそうなものは何もない。
「みー、みー」
「ごめんよ、何も持ってないんだ」
手を差し出すと子猫が近寄ってきて、匂いを嗅ぎ、ペロペロと手のひらを舐め始める。
「……きみも、追いやられてここに来たのかい」
返事はなく子猫はただ舐め続ける。そっともう片方の手を伸ばして子猫を撫でた。緊張が抜けて、少し駄弁りたくなった。
「ぼくは、弱虫だから、こんなところで蹲ってるんだよ。お金も取られちゃって…………お母さんになんて言い訳しよう……ぼく、ぼくほんとはもっと、今日こそ立ち向かうんだって、き、きめてたのに、うっ……ぐ、うぅ」
ぼたぼた、情けないのに涙が止まらない。
「もっと強くなりたい……」
「みゃう!」
「うわぁあ」
子猫が飛びかかってきて後ろに倒れた。その拍子に、少し遠くに置いてあるダルボールに気づいた。子猫を抱えてダンボールまで歩く。
ダンボールの中には布と「拾ってください」の文字。
「きみ、捨てられたの……?」
「みゃあ」
「……」
「みゃー」
つばを飲み込んだ。深呼吸をした。
「……よし。うちで引き取れないか聞いてみるよ。無理なら……誰か探してみよう」
ここで子猫を見捨てて逃げ出すと、もっと弱虫なぼくになってしまう気がした。
「うちに帰ったらまずお水を用意しよう。それから……猫って何が食べられるんだっけ」
「みー」
とにかく、帰ったら調べて何か食べ物も準備しよう。
「帰ろうか」
「みゃう」
11/15/2023, 1:58:31 PM