よあけ。

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10/27/2023, 1:28:29 PM

お題:紅茶の香り

紅茶の香りに貴方の影を重ねた。
貴方がいなくなって5年は経つ。
貴方は僕が淹れた紅茶を好んでよく飲んでくれていた。いや、“よく”ではないか。良く、呑んでくれていた。
紅茶を淹れれば、部屋の角で怯えと絶望の瞳をシーツで隠した貴方は僕を見上げ「ありがとう」とティーカップを両手で受け取る。
ミルクを注いであげるとドロりと目を溶かし「あなただけが私の闇の中にいるのよ」「愛しているわ」と言う。
腹の中でミルクティーがグルり渦巻く。
懐かしい、陰湿な空気。
僕はずっと夢を見ている。
貴方が……君が、僕に呪いをかけたからさ。
ねえ、■さん。
毎朝、毎晩、毎朝、毎晩、紅茶を淹れ、ミルクを注ぐ。
僕のルーティンさ。
マーブル模様を描く液面に君の瞳を思い出し、紅茶の香りに貴方の影を重ねる。
毎朝、毎晩、毎朝、毎晩。
ねえ、■さん 紅茶 愛しているよ。

10/24/2023, 2:26:22 AM

お題:どこまでも続く青い空

何度も何度も手を伸ばした。あなたを掴めたらと。
遥か彼方広がる青いあなたはいつでも僕を見ていた。
どんな僕でも見ていた。
なあ。
お前はどこまでいくんだ。

10/16/2023, 3:27:24 AM

お題:鋭い眼差し

私が今からやろうとしている行いを咎めるように。
私が今からやろうとしている哀れを宥めるように。
その鋭い眼差しが、後ろめたく
ない。
後ろめたくない。全く。
是非その目で目撃してほしい。
そして証人となれ。
私はこれなら狂言をする。
その鋭い眼差しで、お前も舞台の一員となれ。
お前だけ逃してなどやるものか。
引きずり上げてやる。

10/13/2023, 3:08:40 PM

お題:子供のように

所謂「子供らしい子供」ではなかった僕が「子供のようになりたい」と言うのは変な話だと思うんです。子供を知らない人が子供のようになんて言えるはずありませんでしょう。僕が思い描く「子供」はあまりにも純粋すぎている気がしますし、では自分に置き換えてみようと思うとあまりにも歪ですし、では他の例を上げるとただのクソガキになります。子供って思ってるよりきれいじゃないでしょ。「汚れを知らない純粋無垢」なんて嘘っぱちで夢物語ですよ。大人は子供にそうあってほしいらしいですが。「大人」のほうが夢見がちかもしれませんね。そういうのを「子供のよう」と言うのですかね。

10/11/2023, 2:39:18 PM

お題:カーテン

観客

観客席に座る俺には重いカーテンの向こう側を知る権利なんてないだろう。知る機会もないだろう。重厚感溢れる赤いカーテンが舞台の世界と俺を区切っている。圧倒的な存在感で「こちら側」を。見せないように、見えないように、知らないように、互いが互いに干渉し合わないように世界を隠し区切っている。


カーテンコール

カーテンコール。好き嫌いはあるだろう。良し悪しなんて俺が計り知れたものではない。一概に決めつけるのはナンセンスだ。そう言っておきながら「一度閉じた世界が再び開く、それがカーテンコールだ」と思う。「それは何を意味するのか」尋ねる前に観客席に座ってくれ。


スポットライト

スポットライトを一身に浴びた。光り輝く柱がこちらに落ちてくるのはひどく高揚する。視界が色とりどりチカチカ輝き、観客の頭は光の粒の一つとなる。幻覚を見ている時と酷似している。不安と興奮の間、マーブルの世界。この場所に立ったとき観客席は見ていない。見えないし、見る必要もない。僕は僕だけのスポットライトを知っていればそれでいいのだ。


フィナーレ

拍手喝采、スタンディングオベーション。舞台上で深々とお辞儀をしているあの人はきっと私のことは見ていないだろうし、客席から強く見詰めているあの人は自分の世界で成り立っているし、私はただのエキストラだ。


曽て

スポットライトを浴びたことがある。曽てその舞台に立っていた。重厚なカーテンの向こう側、もう戻れないだろう。小手先の技術を中途半端に手に入れ、磨き上げることなく舞台を降りた俺にも純粋な目だけで見ていた曽てがあった。重いカーテンの向こう側を知った。

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