お題:紅茶の香り
紅茶の香りに貴方の影を重ねた。
貴方がいなくなって5年は経つ。
貴方は僕が淹れた紅茶を好んでよく飲んでくれていた。いや、“よく”ではないか。良く、呑んでくれていた。
紅茶を淹れれば、部屋の角で怯えと絶望の瞳をシーツで隠した貴方は僕を見上げ「ありがとう」とティーカップを両手で受け取る。
ミルクを注いであげるとドロりと目を溶かし「あなただけが私の闇の中にいるのよ」「愛しているわ」と言う。
腹の中でミルクティーがグルり渦巻く。
懐かしい、陰湿な空気。
僕はずっと夢を見ている。
貴方が……君が、僕に呪いをかけたからさ。
ねえ、■さん。
毎朝、毎晩、毎朝、毎晩、紅茶を淹れ、ミルクを注ぐ。
僕のルーティンさ。
マーブル模様を描く液面に君の瞳を思い出し、紅茶の香りに貴方の影を重ねる。
毎朝、毎晩、毎朝、毎晩。
ねえ、■さん 紅茶 愛しているよ。
10/27/2023, 1:28:29 PM