お題:カーテン
観客
観客席に座る俺には重いカーテンの向こう側を知る権利なんてないだろう。知る機会もないだろう。重厚感溢れる赤いカーテンが舞台の世界と俺を区切っている。圧倒的な存在感で「こちら側」を。見せないように、見えないように、知らないように、互いが互いに干渉し合わないように世界を隠し区切っている。
カーテンコール
カーテンコール。好き嫌いはあるだろう。良し悪しなんて俺が計り知れたものではない。一概に決めつけるのはナンセンスだ。そう言っておきながら「一度閉じた世界が再び開く、それがカーテンコールだ」と思う。「それは何を意味するのか」尋ねる前に観客席に座ってくれ。
スポットライト
スポットライトを一身に浴びた。光り輝く柱がこちらに落ちてくるのはひどく高揚する。視界が色とりどりチカチカ輝き、観客の頭は光の粒の一つとなる。幻覚を見ている時と酷似している。不安と興奮の間、マーブルの世界。この場所に立ったとき観客席は見ていない。見えないし、見る必要もない。僕は僕だけのスポットライトを知っていればそれでいいのだ。
フィナーレ
拍手喝采、スタンディングオベーション。舞台上で深々とお辞儀をしているあの人はきっと私のことは見ていないだろうし、客席から強く見詰めているあの人は自分の世界で成り立っているし、私はただのエキストラだ。
曽て
スポットライトを浴びたことがある。曽てその舞台に立っていた。重厚なカーテンの向こう側、もう戻れないだろう。小手先の技術を中途半端に手に入れ、磨き上げることなく舞台を降りた俺にも純粋な目だけで見ていた曽てがあった。重いカーテンの向こう側を知った。
10/11/2023, 2:39:18 PM