よあけ。

Open App
7/31/2023, 4:22:05 AM

お題:澄んだ瞳

息を呑んだ。
たった一瞬、瞳が輝いて見えた。
澄んでいるのは潤んでいるから。
涙が潮風にさらわれて飛び散っている。

7/28/2023, 2:02:47 PM

お題:お祭り

浴衣着て、りんご飴にカステラに、それっぽいやつらが大量発生。鼻緒が切れて背負ってもらう、なんて、ありもしない乙女な夢を抱きつつ、無闇矢鱈にはしゃぎ回り。花火を見るため穴場とやらを探し出し、たかが炎に歓声をあげ。

「あ〜〜〜〜あぁ、くっだらねえ」

くだらない。本当に。

「アンタが一番はしゃいでるよ」

浴衣着て、りんご飴にカステラに、下駄履いて、変な調子であっち行きたいこっち行きたい歩き回って、穴場とやらで花火を見てる。

「アンタが一番楽しそうだよ」

花火に照らされた君の笑み。

認めたくないのだ。くだらない。認めてしまってはいけないのだ。くだらない。

「ぶはっ! なんて顔してるわけ! この意地っ張りめ〜!」
「うっわ! やめろ、恥ずかしい! 引っ張るな」
「あはは! 素直に楽しもうよ。浴衣すっごく似合ってるんだからさ」

ああ! 恥ずかしい!
君が素敵だと認めるわけにはいかないのに!







お祭りは帰り道を辿っているときが一番いい。

なんで?

まるで夢と現実の境目を彷徨っている気分になれるからさ。

ふうん。

(キラキラ、遠くで提灯が光っていて、でもここは街頭の明かりがジジジと降り注いでいて、遠くから音楽が聞こえて来るのに、ここだけコンクリートを踏む靴の音だけで。たしかに、このままどこかへ彷徨ってしまいそうな気がして……怖くなって腕にしがみついた)

お祭りの帰り際は寂しくなるよね。この寂しさも僕は好きなんだ。

(そう言って心地よさそうに笑った。この人は、寂しいが、好きなのかな)

……寂しいのはやっぱり寂しいよ。こわくないの?

怖いかい? 寂しい気持ちを寂しいまま感じられるなんて、なんと幸せなことだろうと思うんだよ。

……わかんない。大きくなったらわかる?

(不思議な感覚がした。宙に浮くような。怖くて、またぎゅっと腕にしがみついた)

どうだろうね。ふふ、お家帰ろっか。

うん! おうち帰る。

(優しく頭を撫でてもらって、僕はようやく息を吐いた。どんどんお祭りの賑やかさから遠ざかっていって寂しい。けど、お家に帰れると思うと嬉しくなった。ほんのちょっぴり、寂しいの良さをしれた気がする)

7/26/2023, 11:01:50 AM

お題:誰かのためになるならば

「誰かのためになるならば」ではなく「誰かのためでなければ行動できない」の間違いだ。大義名分がないと何もできない。役に立てなければ価値がないから。「役に立つからここに居ていいよ」という許可一言が欲しいがために。

7/26/2023, 9:46:13 AM

お題:鳥かご

 君は鳥かごが似合う。必ず。
 首を傾げて、差し込む光に照らされ艶めく髪。ふわりふわりと風で服の裾が揺れていて、今にもその青空へ飛び去ってしまいそうだ。君は人気者。君は自由。
「一緒に座りませんか」
 ――今だけはその目、僕を見ているんだ。

 図書室の本を整理しようと扉を開ければ珍しく先客がいた。窓辺に設置された椅子に座っている彼は柔らかな陽光に包まれている。ゆったりとページをめくって優雅に本を読んでいるようだ。今日は天気がいい。青空を視界の端に見ながら読書をするのはとても心地良いだろう。
「あれ、図書委員は今日お仕事かい?」
「こんにちは。今日は仕事じゃないんですけど、時間のあるときにやっておこうかなぁと思いまして」
 お邪魔してすみませんと言えば彼は大丈夫だよと微笑んで本を閉じ立ち上がった。どうやら手伝ってくれるらしい。
「バラバラになった本を順番に並べ変えて、それから……あった、これです。この紙に本の有無を記入していくんです」
「お安い御用だよ」
「助かります」
 コトンコトンという本の音と柔らかな陽光に自分以外の息づかい、穏やかな空気に包まれている。今日彼がここに居て良かった。
 同じ本棚についたとき、彼はこちらを見て唐突に言った。
「君は鳥かごが似合いそうだね」
「鳥かご?」
 とても嬉しそうな顔をしているものだからそんなに似合いそうですかと問いかけた。彼は満足そうに頷き「うん。とても」と目尻を下げる。
「俺、そんなに弱っちく見えますかね〜」
「弱いだって?」
 コトン、スー、コトン、コトン。この本は表紙が弱っている。
「ええ。だって鳥かごに入ってる鳥は捕まってるわけじゃないですか」
「うん、そうだね」
 コトン、ス、コトン、コトン。ここの棚は滑りが悪い。
「餌に仕掛けられた罠に掛かって捕まったんですよね。だから、小さくて弱いのかなぁって」
 コトン、コトン、コトン。この本はシリーズ物なのに2巻目が足りない。
「ねえ、鳥を飼う時、君は野生の鳥を捕まえるの?」
 本棚に入れようとしていた本を中途半端に止めて彼を見上げた。とても真剣な眼差しだった。
「そんなわけないじゃないですか。法律違反ですよ〜? 買うんですからペットショップに行きます」
「そう、綺麗に飼われた鳥を買いにいく。それから鳥かごに入れる」
「あれ、じゃあ俺、おぼっちゃまとかに見えてるんですか」
「ふふ、確かに君は世間知らずの箱入りおぼっちゃまだ。鳥かごに入れて、お世話をして、美しい羽を保たせて、それから毎日眺めて君を見つめるのはさぞ満たされるだろうね」
 コトン、コトンと、彼は順調に本を入れ始める。
「なんだか褒めてもらってる気分です」
「君が綺麗なのは事実だよ」
「だから鳥かごが似合うって思ったんですね」
「決して弱いだなんて思っていないよ。君を見下しているように聞こえた?」
「いえいえ! そんなことありません」
「そうかい?」
「優しく丁寧にお世話して飼うっていうのもありますもんね。鳥かごのイメージが、拘束とか捕獲とか、そういう過激なイメージがあっただけです」
 コトン。抱えていた最後の一冊を入れた。
「少し休憩にしましょうか」
 随分埃っぽくなった部屋の換気をしようと窓を開けると、ぶわっと強い風が教室に吹き込んでくる。心地良い。陽の光も、青い空も。
 風が気持ちいいですよ、と声をかけようとしてやめた。彼はさっきの場所で立ち止まったままだ。

「……間違ってないよ」

(彼は何か言っただろうか)

「僕は欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れる口だ。それこそ野鳥を捕獲するのが違反だとしても。自由に羽ばたけるその羽をもぎ取ってでも、僕は欲しい」

(彼が鳥を飼ったら、頬杖をついて、うっとり眺めるんでしょうか。ちょうど今みたいな目で)

「お世話をして可愛がるだけの生温いものなんて満足できない。拘束して捕獲して、鳥かごに閉じ込めて、一生檻の中で飼い殺すくらいじゃないと」

(あ、今、いいアイディアが思い浮かんだんでしょうか。とても楽しそうな顔……こんなに遠い)

「一緒に座りませんか」
 今度こそ声をかけると彼は一等優しく微笑んだ。

7/23/2023, 10:39:34 AM

お題:花咲いて

花咲いて、実になって、これが私の腹の中に入ると思うと、どうにもこうにも身の毛がよだつ。こんなに美しい花がいつしか腹の中に収まってしまうなんて。恐ろしいよ、恐ろしい。ああ、恐ろしい。

Next