中宮雷火

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2/5/2025, 1:09:40 PM

【心の裏】※再掲

「心って書いて、なんて読むと思う?」
当たり前じゃないか、「こころ」と読むに決まっているだろう。
「『こころ』じゃないの?」
「まあ、そうとも読むけど、別の読み方があるんだよ」
君は椅子から立ち上がり、教室の前にある黒板へと向かった。
白いチョークを手に取り、君は字を書き始めた。
カツッカツッという音が教室中に響き渡る。
僕は、それを教室の後ろから見る。

「心と書いて、『うら』と読むんだよ」
君は振り向いて言った。
「そうなんだ…」
「『心もなし(うらもなし)』って言う言葉があるんだけど、意味わかる?」
再び、君からの質問を考える。
心が無い、それすなわち……
「優しく無いってこと?」
「ちょっと違うねー。
『心もなし』っていうのはね、相手に気を遣ったり遠慮したりしないって意味なんだよ」
僕はそれを言われて、はっとした。
「……なんで、その話をしたんだよ」
すると君はふふっと笑って言った。

「私が失恋したからって、気なんか遣わないでね」

2/4/2025, 12:15:07 PM

【枯れない愛には花束を】

かつての恋人が好きだったドライフラワーを、自分も買ってみた。
早速部屋に飾ってみると、部屋を包む陽の気を吸い取っているような気がして、それは何だか嫌だったが、部屋に新しいものが増えただけで、気分が良くなった。
 
ドライフラワーを眺めていると、かつての恋人との思い出が蘇ってきた。

恋人は、ドライフラワーを好んでいた。
恋人の部屋に行くと、棚の上にはいつもドライフラワーが飾られてあった。
どうしてそんなにドライフラワーが好きなのかは分からない。
けれど、花瓶に可愛らしく飾られているドライフラワーは、確かに恋人にピッタリだった。

結局、1年前に破局してしまった。
何年も一緒にいると、どうしても恋人とのすれ違いはあるのだ。
仕方ない。
仕方ないけれど。
ドライフラワーを眺めただけで、また恋人のことを思い出すのだから、未練が残っているのだろう。

あの時自分が何か気の利いたことを言えていたら、とか。
あの時あんな態度とらなければ良かった、とか。
ああ、この恋はとうに枯れたのかな。
そんなことを考えると、少しだけ涙が出そうになった。
そして、この感情は「恋」ではなく「愛」だということに、今更気づいてしまったのだ。

2/3/2025, 10:21:47 AM

【痛覚】

優しさが痛い。
誰かが私に向けてくれる優しさが、あまりに眩しすぎて、「痛い」と感じることがある。
ほんの些細なこと、「大丈夫だよ」とか「ありがとう」とか、たった10文字以内で済むような言葉も、私にとっては痛かったりする。

優しさに、後光が差している。

2/2/2025, 11:31:57 AM

【ラブレター】

3年前、クラスメイトの女の子からバレンタインチョコを貰った。
放課後、誰もいない教室で、
「義理チョコだからね、勘違いしないでよ」
って、小さな袋を渡された。
「開けていい?」と聞いて中身を開くと、手作りのハート型チョコが2枚と、お守りが入っていた。
「お守り、作ってくれたの?」
「だって、もうすぐ受験でしょ。
私は推薦組だからもう終わってるけど、大介くんはまだ一般受験が控えてるでしょ?
私が力になれることは少ないけど、応援したいなって」
その言葉を聞いて涙が出そうなのを我慢しながら、「ありがとう」と伝えた。

お守りに支えられながら受験した大学に無事合格し、俺にも春が来た。
そうして春が幾つか過ぎたある日、
お守りが破れてしまった。

「縫い方分かんねえや……」
偶然裂けてしまったお守りを眺めながら、俺は溜息をついた。
はあ、なんでこんなことになったんだろう。
そう思いながらお守りを手に取ると、中に何か入っていることに気づいた。
取り出してみると、小さく折りたたまれた紙があった。
「なんだ?」と思い開くと、何かが書かれていた。
その文字列を頭の中で理解した瞬間、俺は再び溜息をつき、天を仰いでしまった。

ずっと好きです。

ああ、義理チョコなんかじゃないじゃん。
本命じゃん。
俺は天を仰いだ。
連絡先、やっぱり交換しとけば良かった。

2/1/2025, 12:15:51 PM

【Bye-Bye By You】

私、分かってなかった。
「バイバイ」って言葉の、本当の意味を。
アルファベットにしたら可愛いな、なんて思っていた。
友達との別れ際に言う言葉でしか無かった。
貴方が、言葉の意味を教えたんだ。

5年前の秋だっけ、
私と貴方は初めて会ったよね。
お互い、恋に落ちていたんだよね。
きっと、そうだよね。
一目惚れだったんだよね。
お互いを好きになったんだよね。

冬にはイルミネーションを観に行ったよね。
綺麗だったよね。
空は漆黒なのに、目の前はカラフルで。
何より、貴方がいる世界は美しかった。
あんなにもカラフルだなんて、知らなかった。

夏は、2人で海に行ったよね。
大きな流木に座って、ずっとあんなことやこんなことを話したよね。
夕陽が水平線の向こうに落ちていくのを眺めたよね。
やけに太陽が速く動いてきたような気がするよ。

貴方は病気になってしまったね。
「来い」と言われなくても、「会いに行く」って言ったよ。
毎日のように言ったよ。
「来るな」と言われても、「会いに行く」って言ったよ。

貴方は、凍えるような冬の日に亡くなったね。
冷たくなった貴方の手を握って、涙を流したよ。
最後に、「バイバイ」とだけ言ってくれた。
なんて悲しい言葉なんだ、って思ったよ。
こんな言葉、無くなってしまえば良いのに。
そう思ったよ。

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