中宮雷火

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11/8/2024, 1:23:39 PM

【人生なんてナンセンスなんて】

2002/12/22
今日は、結婚式を挙げた。
遥にプロポーズしてから早4ヶ月。
あれからはあっという間だった。
ご両親の家に挨拶に行って、
2人で婚姻届を出して。
最初にご両親に会ったとき、少し不安だった。
「娘をこんな奴に預けられん」とか言われるんじゃないかって。
でも全然違った。
温かく接してくれて、晩御飯は豪華なご馳走を振る舞ってくれて。
「君と一緒にいる時、遥がとても嬉しそうなんだよ」って言ってもらえて。
それから僕の母さんに遥を紹介した。
親父は既に死んでいるから、遥に会えないのが少し悲しいけど。
でも母さん、僕が恋人を連れてきたのが凄く嬉しかったみたいで。
泣いて喜んでくれたんだよ。

今日の結婚式は、色んな人が来てくれた。
学生時代のバンド仲間、
会社の同僚、先輩、後輩。
小学生の時に幼なじみだった子。
中学の時に喧嘩別れした子。
みんなが僕達に拍手して「おめでとう」って言ってくれるなんて、そんな有り難いこと滅多に無いじゃないか。

僕はずっと、「人生なんて無駄なことばかりだ。」と思っていた。
どうせ死ぬから。
どうせ死ぬなら、何やっても意味ないって。
それでも、どうしても音楽を嫌いになれなかった。
どうせ音楽なんて、って僕は思うけど、
「そんなことない」って言う僕もいて。
そんなことを考えていたら、いつの間にかバンドを組んでいた。
いつの間にか好きな人ができて、結婚している。
「人生なんて無駄ことばかりだから、何やっても意味ない」って思っていた僕は、「人生なんて無駄なことばかりだけど、別に無駄でも良いじゃない」なんて考えてたり。
いつの間にか。

いつの間にか、って感じるようになった時、僕は危機感を感じた。
人生は意外と早く終わる。
いつの間にか結婚して、
いつの間にか子供ができて、
いつの間にか子供が成人して、
いつの間にか僕は亡くなっている。
そんな気がした。
だから、この一瞬を愛おしく思うために、この日記を書き始めた。
折角だから、タイトルもつけた。
タイトルは「きらめき」。
適当に決めたつもりだけど、結構意味のあるタイトルになったと思う。
僕は海が好きだ。
海の音、匂い、どれも好きだ。
海が陽に照らされてきらめいている様子が好きだ。
だから、「きらめき」と名付けたのかもしれない。
あと、「僕の人生がきらめくように」という意味もあるのかもしれない。
今まで「人生なんて無駄だ」とか考えてた人だから。
きっと、心のどこかでは自分に期待している自分がいたんだ。

こんなに長く書くなんて珍しいけど、それくらい今日は書きたいことが溢れていた。
今日のこと、一生忘れないな。

11/7/2024, 10:42:42 AM

【ラストノート】

夢の中には、オトウサンがいた。
私は驚きつつも、意外と冷静でいた。
夢の中だから、そこのところの感覚が麻痺しているのかもしれない。
オトウサンは手に余るほど大きなサルビアの花束を抱えて歩き出した。
慌てて私も後を追った。

気がつけば海に来ていた。
柔らかい青空に穏やかな海。
近くの大きな流木に、2人並んで座った。
話すこと無く、ただ静かに風景を眺めていた。
波がザァーッと音を立てる。
私の家は港町にあるから、聞き覚えのある音だ。
しかし、いつもよりも惹かれる音だった。

次に訪れたのはひまわり畑。
私が唯一覚えている、オトウサンとの思い出の場所。
私はひまわり畑の中を走り回った。
かつてのように。
ひまわり達を掻き分けて進んでいく。
空は鮮やかな青色。
オトウサンのほうを振り返ると、微笑んで立っていた。
赤いサルビアがよく目立つ。
『次は此処でギター弾いてあげるからな』
あの日の言葉が蘇った。
……ああ、
ああ、思い出した。
オトウサンの声。
そう、風のように爽やかな声だったんだよ。
やっと、やっと思い出せた!
その瞬間、突風が吹き荒れた。

顔を上げると、病院の屋上にいた。
オトウサンは小さな塀の上に立っていて、今にも飛び降りてしまうのではないかとヒヤヒヤした。
しかし、当の本人は怖がる様子も無く、手を大きく開き、全身で風を受け止めているように見えた。
私は何もすることができず、棒立ちだった。

今度は夜の公園。
私達以外には誰も居ない。
ただ、無機質な外灯が辺りを白く染めていた。
ジャングルジムに登って、ブランコに絡まって、滑り台のいちばん上に登って。
それはまるでかくれんぼのように、貴方と私は噛み合っているようにすれ違っていた。
私はやっと声を出した。
「オトウサン、」
オトウサンは振り返った。
悲しそうに、寂しそうに、でも愛おしそうに。
「私、オトウサンのことをやっと知れたよ。」
別にそんなこと言うつもりは無かったのに。
口は、私が思うより勝手に動いていた。
「私、オトウサンの名前を素直に呼べる気がする。」
オトウサンはニコッと笑った。
「良かったよ、海愛」
私にとって、最初で最後。
オトウサンに名前を呼んでもらえたこと。
これが私への遺言であること。
そのメッセージを心で受け止めながら、サルビアの香りが鼻を染めながら、私は悟った。
これで、終わりなんだな。

目が覚めた。
5秒ほど、何がどうなっているのか分からなかった。
しかし、私がオトウサンと永遠の別れを告げたと理解した途端、左目から涙が溢れてきた。
ああ、もう終わりなんだな。
オトウサンのことを知る旅は終わりなんだ。
右目からも涙が溢れてきた。
良かった、最後にオトウサンに会えて。
最後に会いに来てくれて、ありがとう。
私はただ泣くことしかできず、でもそれは嫌なことだと思わなかった。

鼻にはサルビアの香りがまだ残っていた。

―――――――――――――――――――――
2010/12/21
きのう、さいごの歌をつくった。
もう、今日で死ぬんじゃないかと思っていたけれど、今日も生きている。
でも、今日でさいごかもしれない。
もしかすると、あしたも生きるのかもしれない。
わからない。
わからないけど、さみしい。
ずっと嫌で、こんな生活が辛くて、何度も死にたくなったし死のうと思った。
でも、できなかった。
ぼくはどこまでも生きたがりの人だった。
だけどもう長くないとしった。
ここまでくると、もう腹をくくっている自分がいる。
そして、せめてぼくの大切な人達には生きてほしいと、ただそれだけを願うばかりである。
ああ、雪がきれいだ。
しんしんとふっている。
美しい。
色々な思い出が見えるようだ。
やっぱり、もう少しだけ生きたかった。
春を迎えたい。
―――――――――――――――――――――
それは「銀世界」という言葉が似合う2010年12月21日。
午後3時33分のこと。
オトウサンは大切な人を思い浮かべながら、天国へと旅立ったのだ。

11/5/2024, 11:57:17 AM

【光を売る仕事】

彼は、光を売る仕事をしている。
仕事と言っても、対価はお金ではなく笑顔だけど。
そして私は彼のもとで助手をしている。

仕事は簡単。
球体が出現するから、穴を開けるのだ。
この球体は「孤独」「絶望」を意味する。
そこに、鋭利なピンでえいっと穴を開けて、
彼が生み出した光を詰めると完成。
その後、少し大きめの覗き穴を作って、
そこから様子を覗き込む。
中には「誰か」の暮らしの様子がある。
その「誰か」が笑顔になっていれば良い。

「良かった、元気を取り戻したみたいですね」
私は球体を覗き込んで、満足気に言った。
中には「誰か」がいる。
この人は好きな人に告白したものの振られてしまい、失意のどん底にいた。
「笑顔になったなら、良かった」
彼もまた微笑み、コーヒーを片手に新聞を読み始めた。
私は彼の笑顔を見て、ほっとする。
ほっとしつつ、寂しく思う。
光があれば闇が生まれる。
光を売る仕事は、影を生む仕事でもあるのだと。

11/4/2024, 10:31:13 AM

【メランコリック少女】

大人は秋が好きだ。
何故なのかは分からない。
夏の太陽の眩しさが辛いから?
冬の凍えるような寒さが辛いから?
だから中間の秋が好きなのだろうか。

でも、私は秋が嫌いだ。
これも何故なのか分からないけど、
秋になるととても悲しくなるのだ。
枯れ葉が落ちる様子、
秋の空が濃く青く染まる様子。
秋の絶景には息を呑むばかりだが、
そこにはどうも何かが足りない。
楽しい、という感情が足りない。

どうしても秋を好きになれないから、
私は過ぎた夏に思いを馳せ、
いずれ来る冬を楽しみに待つ。
きっと冬になれば、また天使が舞い降りるから。

しかし、どうも最近秋を好む私がいるという事に気づき始めた。
私も、大人になってしまったのだろうか。

11/3/2024, 12:58:12 PM

【顔面偏差値判定鏡】

「あなたはブサイクです」
顔面偏差値判定鏡にストレートに言われた。
「いや、そんなストレートに言わなくても…」
「これが私の仕事なので。」
鏡はツンとした声色で答えた。
嫌な鏡を貰ったものだ。
友達から誕生日プレゼントとして貰ったのだが、相性は最悪だ。
美人な友達も、私がブサイクであるのは見て分かるのにこんな鏡をプレゼントするなんて、
本当に性格が悪い。
友達の誕生日には、性格偏差値判定鏡を贈りたいものだ。
 
本当は直ぐにでも捨ててしまいたいのだけど、鏡が無くなるのも嫌だ。
全身をちゃんと確認できるものがいい。
「あなたは本当にブサイクです。
そんな格好で人前を歩くなんて。」
分かってる、そんなの。言われなくたって…
「鼻と唇の距離が遠い、乾燥肌、唇も乾燥気味。フェイスラインがスッキリしていない、
ファッションセンスが 皆無、……」
次々と私のブサイク要素を挙げていく鏡に対して、私は苛立ちと惨めさを感じていた。
しかもこの鏡、具体的にどこを直せばいいのか教えてくれない。
不良品にも程がある。
「分かってる、そんなの……」
ブサイクな私は大学へと向かった。

大学帰りにプチプラコスメを買って帰った。
家に帰って早速試してみる。
「あらあら、メイクの練習なんて珍しい。
そんなの、自分を良く見せるための仮面みたいなものですよ。」
うるさい。
私は無視して練習した。
「そんなに頑張っても、元の素材が変わるわけ無いのに。」
「じゃあ、整形しろって言うの?」
さすがに頭にきて、言い返した。
「……」
「いい加減口閉じてよ。」
私は再びメイクの練習を始めた。

今日は休日。
友達と服を買いに行った。
こちらの友達は心優しくて、あの毒舌鏡を送りつけた性格の悪い友達とは真逆の聖人だ。
「うーん、イエベならこっちのほうが血色良くなりそうだけどなぁ…」
「えっと、イエベとブルベって何?
私、全然詳しくなくて。」
「肌が黄色よりなのはイエベ、青寄りはブルベ。
まあ、ちゃんと診断してみないと分からないけどね。
血色良く見せるためには、こういうパーソナルカラーに合わせると良いみたいだよ。」
そう言って友達が選んでくれたのは、秋らしい低彩度な赤色だった。

2カ月後のこと。
美容院で髪を切ってもらった。
ふんわりしたボブ。
結構気に入っている。
最近は割と肌の調子がいい。
乾燥気味だった肌は、新しい化粧水のお陰か、もっちりしている。
最近は、少しだけ毒舌鏡が柔らかくなったような気がする。
「アホ毛が立っている、唇が乾燥気味、ネイルが下手、メイクが下手。
まあこれくらいですかね。」

月日がかなり経って、2年後。
「まあ、良いんじゃないですか」
遂に毒舌鏡から褒めてもらえた。
「え、えっ、悪いとこは?無いの?」
「強いていえば、爪がやや長いです。」
やった、遂にやった。
見たか?私を馬鹿にしてきた奴。
今までに無い多幸感が私を埋め尽くしていた。
「それじゃ、」
「え?」
私は養生テープを用意し、鏡に直接貼り付けた。
「な、何をするんですか?」
「今から貴方のことを捨てるの。」
鏡に貼り終え、私は床に新聞紙を敷いてからハンマーを取り出した。
「ま、まさかそれで…」
「こうすればゴミが小さくなって、捨てやすくなるからね。」
「やめて」
私は無視してハンマーを振り下ろした。
パリンッと音を立てて、豪快に割れた。
ハンマーを振り下ろす度、私は心が軽くなるのを感じた。
かわいいとかかわいくないとか、どうでもいいじゃないか。
ブサイクとか美人とか、どうでもいいんだって。
割れた鏡には、見た目以上に美しいものを持つ私の姿が反射している。

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