中宮雷火

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8/2/2024, 1:35:21 PM

【手紙】

山本幸一郎様

拝啓
本年も山茶花がいっせいに咲きだす季節が巡ってまいりました。
先生がお亡くなりになられて約半年が経ちました。 
天国ではいかがお過ごしでしょうか。
私は、この手紙を病室で書いています。
というのも、虫垂炎になってしまったのです。
数日前までは酷く痛んでいましたがも、今は少しだけ楽になりました。
心配しないでください。

病室で何日も過ごすのは、やはり慣れないものですね。
毎日同じ景色で、非常に退屈です。
先生は、長くこの景色を見ていたのですね。
私には今、先生の苦しみが少しだけ分かるような気がします。
私にとって唯一の楽しみは、窓越しの外の景色を見ることです。
窓から見える秋の空虚な空が、私は好きです。
淋しいものですが、この人肌の恋しさが堪らなく愛おしいのです。
私も大人になってしまったのでしょうか。
大人は秋が好きですから。
先生が病室から見ていた景色も教えて欲しいです。

他愛もない話になってしまいましたが、これからも私は先生の教えを胸に頑張ります。
そんな私を、どうか天国から見守ってほしいです。
先生のご多幸をお祈り申し上げます。

               敬具

11月11日
             山本鞠子

8/1/2024, 11:18:02 AM

【明日、もし晴れたら】

明日、もし晴れたら公園で遊ぼう

明日、もし晴れたらショッピングモール行こう

明日、もし晴れたらデートしよう

明日、もし晴れたら遊園地行こう

明日、もし晴れたらとっておきの場所に連れて行ってあげる

明日、もし晴れたら素敵な結婚式になるね

明日、もし晴れたら映画観に行こう

明日、もし晴れたらマタニティグッズ買いに行こう

明日、もし晴れたら病院行こう

明日、もし晴れたら3人で花畑を見よう

明日、もし晴れたら遊園地行こう

明日、もし晴れたらいい入学式になるね

明日、もし晴れたら運動会観に行けるね

明日、もし晴れたらいい卒業式になるね

明日、もし晴れたら病院に行こう

明日、もし晴れたらお見舞いに行こう

明日、もし晴れたら少しだけお出かけしよう

明日、もし晴れたら病院に来て

明日、もし晴れたら外で写真撮ろうよ

明日、もし晴れたらお墓参りに行こう

明日、もし晴れたら二人で色んなとこに行こう

明日、もし雨が降っても君を忘れないでいよう

明日、もし晴れたら…



8/1/2024, 7:34:40 AM

【私のヒーロー】

ヒーローが、居なくなった。
蝋燭の火を消すみたいに、姿を現さなくなった。
いつもなら、直ぐに邪悪な怪物を倒しにやってくるはずなのに。
いつまで経っても現れなかった。
幸い、ヒーローは世界各地に何百人もいる。
一人くらい欠けたって、何も影響はない。
しかし、「ヒーロー」という単語を耳にして、人々が思い浮かべるのはただ一人。
そして私は、「ヒーロー」の正体を知っている。

「…なんで来た。」
ドアを開けるなり、和真は開口一番にそんなことを言った。
「いや、心配になって、来ちゃった、というか…」
「来んな。一人にさせろ。」
和真はそう言ってドアを閉めようとした。
「ちょっと!中に入れてよ〜!」
「うるせぇっ!いきなり家凸んなよ!連絡入れろや!」
「そっちが既読つかないんだし、しょうがないじゃんっ!家入るよ!」
私は強引に中に入った。
なんだか変な匂いが鼻を突いた。
ゴミが辺りに散らかっているではないか。
「うわ、臭っ。ゴミだらけじゃん。ちゃんと掃除してんの?」
「ほっといてくれよ。」
「…ちょっと耐えらんないから掃除するよ。ゴミ袋出してー」

2時間後。
ゴミは全部ゴミ袋に入れた。
床やテーブルもちゃんと拭いて、埃も消えた。
本人曰く、クローゼットや物置部屋が汚いらしいが、今回はこれだけにしておこう。
掃除しだすとキリがないから。

「めっちゃ片付いてんじゃん。
おもてなしするから待っとけ。」
「いいよ、そんなに。
おもてなしはいいから、話聞かせてよ。
この1ヶ月の間に何があったの?」
和真は黙り込んだ。
きっと、相当な事情があるんだろうな。
「なんでいきなりヒーロー辞めちゃったの?みんな言ってるよ、寂しいって。」
「……」
「みんな心配してる。それに、辞めちゃうなんてもったいないよ。ヒーローの仕事続ければきっと」
「黙っててくれよ!!」
和真はいきなり声を荒げた。
思わずビクッとしてしまった。
「…ヒーローの仕事なんて、こんなんじゃなかったはずなのに。」
「それって…どういう意味?」
「ヒーローは、正義なんだろ。
なんで知らん奴らの黄色い声援浴びなきゃいけないんだよ。」
「みんな応援してくれてるってことだよ」
「あんなの応援じゃねえよ。
ただ、『推し』とか『有名人』くらいの認識だろ。
俺はそんなの求めてない。
俺なんて、どうせ…、どうせ商業的な消費コンテンツなんだろ。
…それに、ネットでは偽善者とか言われてる。
そんなに俺のやってることが気に入らないのか?」
返す言葉がなかった。
事情を知らない人からしたら、病んでるとかメンヘラとか自意識過剰とか、そう思われるのかもしれない。
けど、違う。
和真は本気で悩んでる。
自分はヒーローだと、おもちゃじゃないと葛藤している。
助けを求めているようにも感じる。
私の知らないところで、そんなに思い詰めていたなんて。

「…ごめん、気づいてあげられなくて。」
「……」
思えば、いくらでもヒントはあった。
最近浮かない顔をしていること。
口調が少しだけ荒くなっていること。
つまらなそうな目をしていること。
他にもたくさん。
なんで、気付けなかったんだろう。
あの時とは、全然別人じゃないか。


思い出すのは学生時代のこと。
学校でいじめを受けていた私にとって、和真は「私のヒーロー」だったのだ。

「何でも言えよ。
あいつらに言い返せる奴なんてそうそういないから、俺のこと頼れよ。
言い返してやるから。」

「今日さ、一緒にカフェ行かない?
それからガチャガチャの専門店とか、カラオケも良いよな。」

「みんな絶対優佳の良いとこ知らないだろ。
めちゃくちゃ優しくて賢くて、一緒にいると楽しいのに。
みんなもったいないよなぁ。」

たまにセンスおかしいけど、いつも私の味方で、唯一楽しませてくれる人なのだ。
一緒に遊んでくれる人なんて、私にはいなかったのに。

「お前ら、次に優佳のこといじめたら、どうなるかわかってるよな?」

「もうやめろよ。
何がそんなに楽しいんだよ。
優佳、嫌がってるだろ。」

「先生、いい加減聞いてくださいよ。
優佳はずっといじめられてるんです!
暴力だって振るわれてます!
それでも知らないフリを続けるんですか?」

和真は戦ってくれた。
同級生に、大人に、全力で歯向かってくれた。
このときから、和真は私のヒーローだったのだ。

「もう、一人にさせろよ。
今日はもう、帰ってくれ…」
和真は泣いていた。
助けを求めていた。
初めて吐いた、ヒーローの弱音だ。
私には、どうすることもできなくて、どうすればいいのか分かんなくて、でも口が勝手に動いた。
「独りには、させないよ。
ヒーローが困ってたら、助けるのが私の役目だもん」
私はそう言って、和真を抱きしめた。
彼の少し冷たい手が、なんだか痛かった。

「じゃあ、帰るね。」
「うん…今日は、ありがとう」
「何も、できなくてごめん。」
「あのさ、」
「ん?」
「また、片付け手伝ってほしい」
「うん、いいよ。」
私は和真の家を後にした。
結局、何もできなかった。
和真の悩みなんて根本的に解決できるものではないと、わかっていたけど。
もうちょっと何かしてあげたかったなぁ。

「ヒーロー」は、復活するのだろうか。
その時は、盛大に祝福するのだろう。
でも、それ以前に「私のヒーロー」なのだから。
彼が「ヒーロー」を辞めても、「私のヒーロー」ではあるのだから。

私のヒーローが居てくれればいいや、だなんて思う午後5時の空が綺麗だった。

7/28/2024, 12:36:21 PM

【極夜】

あ、花火上がった。
僕は家のベランダから大きな花火を眺めた。
赤と黄色、それと白を含んだ流線状の光たち。
花火は英語でfireworksというけれど、確かに火が働いているように思う。
火が自分の意思で動いている。

僕はコーラを一口飲むと、部屋に戻った。
窓を閉め切っても、花火が打ち上がる音は貫通してきた。
昔はこの音が苦手だったけど、今ではなんてことない。

僕はパソコンを開くと、作曲に取り掛かった。
アコースティックギターの録音はできそうにないから、新しい曲の構想でもしようか。
僕は新しいプロジェクトを開いて、手始めにドラムの音を打ち込んだ。

ドッ ドッ ドッ ドッ
チッ チッ チッ チッ
   タン    タン
ヘッドフォンを通じて小気味よいドラムの音を聴く。

思えば、誰かと花火大会に行ったことはないな。
僕はふとそんなことを考えた。
最後に行ったのはいつだっけ。
中3のとき、家族と行ったっきりではないか?
友達や恋人と花火を見たことなど1度もない。
学生時代(今も学生だけど)は学校でひとりぼっちだった。
いじめられていたわけではないが、人よりも才能のない僕は友達を作ることができなかった。
勉強ができるやつ、人と話すのが得意なやつ、歌が上手いやつ、絵が上手いやつ、性格良くて優しいやつ、など。
僕の周りはスペックが高かった。
それに対して僕は、勉強もそんなにできず、人と話すのが苦手で、歌は下手だし、絵も下手だし、性格は捻くれている。
僕に取り柄などない。
そう思っていた。

だけど、あるバンドの曲を聴いたことで一気に変わった。
かっこいい。
この人達みたいになりたい。
初めて抱いた憧れだった。
バンドを組むにはコミュニケーション能力が足りなかったので、作曲してみることにした。
いわゆるDTMだ。
加えて、ギターも始めてみた。
最初は難しかったけど(そして今も難しいけど)、何だか楽しく感じたのだ。
そうして今、ひとりぼっちの1/3人前ミュージシャンは6年目に突入している。

そんな僕だが、2年ほど前からネットに動画投稿している。
そしてびっくりするのは、再生数が100回以上の動画がほとんどだということだ。
素人にしてはかなり高いほうではないか?
しかし、500回の壁は高い。
1000回など夢のまた夢だ。
なので、親からは就活を急かされている。
大学2年生なので猶予はあるが、人生の夏休み中が終わるのもそう遠くはない。

おまけに、友達や恋人は全くできていない。
なので、花火大会やクリスマスは家で静かに過ごすしかないのだ。

華のない人生だなぁ、
僕はずっと負けた気がして悔しかった。
ずっと僕には、ある種の劣等感がつきまとっているのだ。
そして孤独感も。
疎外感も味わってきた。

外に咲く花を眺めながら、僕は思う。
誰かと眺める花火はさぞかし綺麗なんだろうなぁ、と

僕は目の前のパソコンに視線を戻し、ドラムの音を打ち込み続けた。

7/26/2024, 10:43:54 AM

「誰かの為に生きなくたっていいんだよ、
自分の為に生きても良いんだよ」

そう言ってくれる人がいるだろうか。

私は、言えるのだろうか。


あなたは、言えるのだろうか。

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