脳裏
衣替えをする度に開ける引き出し。必要なものを取り出し、来年使うものを仕舞う。
決まったことの繰り返しの中で、1つだけ必要のないことをする習慣がある。
1番上とその下の2つの引き出しを開けること。
開けたところで取り出す衣服はひとつもない。本当に開けて中を見て、また閉じるだけ。
仕舞ってあるもの、それは息子が幼い頃着ていた衣服や雑貨類。お遊戯会で着た衣装から体育の授業で使う赤白帽、制服は勿論、お気に入りで何度も着せてお出かけしたチェックのセーターなど。
違う引き出しには片手にすっぽり収まるベビーシューズや戦隊ヒーローをモチーフにした運動靴など様々。
脳裏に浮かぶのはあの頃の息子の笑顔。いつも笑顔だった。
あの頃に戻れたらもっと上手に育てられるんじゃないかと思ってしまう。
もっといっぱい遊びに行けばよかった。美味しいもの食べさせてあげたり、欲しいもの買ってあげたり、もっと細かいところに気づいてあげたり、、。
今になって悔やんだってどうにもならないのはわかってるけど。
あの頃の笑顔に胸が熱くなるのと同時に、後悔の念で胸が詰まりそうになる。
今はもうとっくに私の背を超えた息子。(私が母でごめんね)と思いながらも顔を見れば軽口ばかり。
「母ガチャ」なるものがあるとしたら、彼は大ハズレを引いてしまった。
「来世は大当たりを引けますように」と祈うことで、拭えない罪悪感を消そうと躍起になる大ハズレ母の私であった。
end
意味がないこと
結婚して50年が過ぎて尚、私達夫婦は「夫婦」をしているの。
今日あったことは話さない、お互いの仕事のことも趣味のことも。若い頃から休日は別々で過ごしていたから、互いが何が好んで何をしているのかわからないのよ。
「おはよう」「おやすみ」「日曜から出社だ」「お風呂沸いたわよ」「いただきます」「ごちそうさま」
これが私達の会話。それ以外は一言もないわ。
元々、彼には結婚願望などなかったの。私の一目惚れで結婚を押し迫ったのよ。私の両親にも紹介したし、断れなかったんじゃないのかしらね。
彼はまだまだ遊び足りない様子だったし、言い寄る女も絶えなかったから当然と言えば当然かもしれないわね。
まぁ、それは今も変わらず、遊びは止まらないけど。
ひどい時は愛人を家の近くに住まわせていたこともあるのよ。着替えもご飯もそっちで済ませて、夜になったら「疲れたなぁ」って寝るのよ。どうしようもないクズよね。
散々悩んで離婚なんてしょっちゅう考えたわよ。だけどね、離婚に意味はないことに気づいたの。
夫婦生活など元々なかったのだから、結婚なんてしてないも同然なのよ。今になって騒いだところで相手は痛くも痒くもない、最初から私のことなんて見えてなかったんだから。
どちらが先にこの生活にギブアップするのかなと思ってたけど、決着つかないみたい。この歳になって我慢くらべも老い先が見えてきたわ。
ここまで別れずにきたからには、相手より長く生きることを目標にしているのよ。
1日でいいわ、絶対にあの人より長生きにしたいの。あの人のいない人生を送りたいわ。
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これは、ずっと前に雑誌で見た何処かのご婦人のインタビュー記事。
こーゆー生き方もあるのだと考えさせられたってハナシでした。
end
あなたとわたし
「がんばれ」なんて、生温い言葉は何の助けにもならないことをみんな分かってるのに使う。
その先どうなるかなんてわかりゃしないし、それこそ責任なんて取れやしないのにみんな使う。親も祖父母も、曾祖父母もそのまた先のご祖先様も、友人も知らない人も、そして私も。
落ち込んだ時、そんな言葉でも言われないよりは言われたほうがいいし、言われたら安心してしまうから、心の何処かではそれを欲してるんだと思う。
でもそんな時に私が自分にかける言葉は「がんばれ」より「やるしかない」とか「やらないよりマシ」が多い。その方がしっくりくる。
あなたとわたし、わたしとあなた。
一緒にいる時間は長かった。笑いも涙も怒りも嫉妬も味わった。
けれど私達、似てるようで全然違う。
あなたが私に言ってくれた
「頑張れ、応援してる」
温かいのに、突き放された気がして痛みを感じた。忘れられない。
だから私からあなたに言う言葉は
「 」
end
柔らかい雨
会いたかったあの人に会えなくなって一年が過ぎた
どうしようもなく塞ぎ込んだ日を送ったわりには、ちゃんと生きている
お腹は空くし、馬鹿げたバラエティ番組を見て笑ってる
朝も時間通りに起きて、支度して家を出る
正直、まだ胸はチクっとするけど
そのうち、忘れてる時間の方が多くなるだろうこともわかってる
信号が青に変わった
もう傘は要らない
柔らかい雨が降る空から一筋の光が差した
end
一筋の光
この歳で新たに始めたことが2つあって。
そのどちらも、まーバカにされます。何たって周りはその道何十年の達人ばかり。当然、プロの方もいるわけで。「今まで何やってきた?」「え、なんで来たの?」の冷めた眼差しに囲まれる私。
どうやらそう簡単には同じ空気を吸わせてはもらえないようで。そりゃそうです。あちらからしたらこの世界舐めんなよ、ですよね。
学びたいと思ったけれど、その道に一歩踏み出すのさえ拒まれそう。折れそう。
だけど、踏み入れた足は引き返せない。自分が好きで選んだんだから。
その方々の爪の垢でものんで、ちまちま精進しくしかありません。
こんな私に少しでも「才能開花」の片鱗を思わせる一筋の光は宿るのか否か、全部自分次第なわけです。
以後乞うご期待。
ではまた明日。
end