透明
今日、僕は透明人間になった。
妻と、子を残して。
建設中の建物の最上階で、頭から落下した。
衝撃音と共に、自分の身体は砕け散った。
幸い、即死だったため痛みは感じない。それでも、嬉しいとは思えないのだ。
がんで入院してる妻と、二人の子供。
残してはいけないものを残した。
妻に、入院費や治療費、生活必需品、全て稼ぐと告げたのは私だ。
子供の養育費、ご飯代、生活必需品代。
頭が真っ白になった。
それと同時に怒りが湧いた。
生前の私の顔を見たくもない。
胸ぐらを掴みたいほどの怒りが湧いた。
その反面、私の顔を見た妻は優しかった。
「頑張ってくれたんだね、ありがとう」
「無理、させてごめんね、、」
今だけは、
溢れた涙を堪えなくてもいいだろうか。
終わり、また初まる
僕の人生は、今日終わった。22歳だった。
次に神に連れていかれた場所は、どこなのかも分からない暗い場所。両手と両足は鎖で縛られ、身動きが取れない。火葬された自分の体は燃え尽き、骨だけが残る。黄泉の国でも同じらしい。
やがて、自分の前に神と思われる男が前に立つと、するりと鎖を外し、別の場所に運ばれた。
所々火が燃えている場所。自分はどこにいる?
隣には、神の姿。自分は、子供の姿に変わっていた。まだ歩けない赤ちゃん。おくるみに包まれ、優しく抱かれる姿。
終わった人生は、また、初まる。
次は、どんな世界だろう。
幼い頃、父親を亡くした。当時母親は悲しませないためか、子供を喜ばすためか、お父さんは星になったんだと教えてくれた。大人になった今でも、その記憶が鮮明に残っている。
当時、母の教えをもろに受けていた私は、当然父親が星になったと純粋に思い込み、毎晩星に話しかけていた。
「お父さん、今日は--」
大好きな父親と話している気分になれたのだ。
そして社会人になると、終電を逃す一歩手前まで仕事をする日々。当然父親のことなど、頭から抜けてしまっていた。久しぶりの休日に、星を見つめていると、突然幼い頃に、父親に話しかけていたことを、ふと思い出したのだ。
「お父さんも、仕事大変だったのかな、」
一度星に話してみると、
なんとなく、気が楽になった気がした。
願いが一つ叶うのならば。亡くなった猫が帰ってきて欲しいと願う。その猫は、祖母の飼い猫。六匹飼っている猫のうちの一匹の猫はつい先日亡くなった。首の腫瘍を取るために手術をした結果、医療ミスにより亡くなったのだ。
祖母は一ヶ月ほど完全に落ち込み、涙を流すようになった。しかし、祖父はもう忘れろと言って話を聞かない。孫の私には、祖母にどんな心の内があるのか分からないが、願いが一つ叶い、猫が帰ってきてくれるのなら、祖母の心の内を晴らせると思うからだ。だから、猫が帰ってくることを願う。
「そっか、そっか、それは寂しいね」
本当は、祖母にそう言い、背中をさすることしか出来ない、自分が嫌なのかもしれない。
好きだよ好きだよ好きだよ。
私はストーカー。今日も変わらず、一人のイケメンを追いかけていた。目標は無かったが、本気で愛していたのだ。テレビで彼の姿を見る度に、とてもドキドキする。しかし、いずれ、幸せも壊されるもの。終わりを告げた私のワルツ。
彼は、結婚したと発表したのだ。
メディアに向けて喜んでいた彼の姿に、絶望と悲しみとよく分からない感情が入り交じった。
嗚呼。嗚呼嗚呼!!
彼はアイドル。私はファン。分かっていたのだ。
結ばれないことはもうずっと。しかし、壊されると悲痛の叫びが喉から焼けるほどに飛び出す。
私は彼と結ばれたかった。夢を見ていた女だ。