君と最後に会った日
君と最後に会った日 君は、いつもの様に
「じゃあ 行って来るね!」と僕に元気良く手を振って飛行機に乗った。
昔から一所に留まれ無い君には飛行機は
なじみ深い乗り物だった。
いろいろな国に行って観光旅行を楽しむのが君の趣味だった。
今は、天国と言う僕の手の届かない所へ
行ってしまった君
天国は、どうだい? 君にとっては
天国なんて場所は、目新しい物でいっぱいだろうから退屈してないかもね!
僕もいつかは君の隣で天国旅行を楽しむ
つもりだ。
けれど それまでは、君が先に下見を
しといてくれ
そして僕が天国まで辿り着いたら
君が自慢気に 胸を張って
「此処の案内は私に任せてよ!」なんて
胸を拳で叩いて僕を嬉々として案内する
君の姿が目に浮かぶから....。
僕は其処に行くのが楽しみになっているんだ。
日常の続き
繊細な花
彼女を初めて見たのは、姉さんと義兄さんの家に遊びに行った時だった。
姉さんと姿形は、そっくりなのに
姉さんとは、まるで違う 僕の姪
凛とたおやかに堂々と咲く花が姉さんなら
姪は、儚げで繊細な花の様だった。
弱々しく脆弱で何をするにも挙動不審で
人の顔色ばかり窺うような目線をこちらに
向ける。
「どうだルーク君 家の娘は、世界一
可愛いだろう!」娘を自慢する様に
義兄さんが自分の娘を僕の前に出させる。
「こ....こんに....ちは....」姪が
聞き取りづらい小さな声で僕に挨拶する。
しかし義兄さんと姉さんはそんな娘の
弱々しい喋り方も気にならない様だった。
姉さんが「この子凄いのよルーク
私の怪我もあの人の怪我もまるで最初から
無かったみたいに治してくれるの」
姉さんがそう言って姪の頭を撫でると
姪は、嬉しそうに笑っていた。
そんな姉さんと義兄さんの言葉も僕は
唯 聞いているだけで何の感想も湧かなかった。
確かに顔立ちは、姉さんに似て可愛いかった でもそれだけだ 姉さんみたいな
清らかな誇らしさも無ければ
義兄さんみたいに姉さんを守れる強さも
無い 姪は誰かを守る強さが無かった。
誰かに守られるだけの臆病な人間だった。
そう だから姉さんと義兄さんは
死んだ この子を守る為に....
姪の治癒術は姪の性質と同じく弱々しく
脆弱だった。
何故この姪に治癒術が備わっているん
だろう....
「家の家系で治癒術を持ってる子が産まれるなんて初めてよ だから私とっても
嬉しいの!」そう姉さんは嬉しそうに
はにかんだ笑顔を僕に向けていたのに
僕に治癒術があれば良かった そうしたら
姉さんも義兄さんもきっと助けられた
そうしたらきっと二人はまだ生きて
いたのに....
二人のお葬式の日 姪は途方にくれた様に
周囲に視線をやっていた これから自分は
どうやって生きて行けば良いのか分からないと言う風に周囲に縋る様な目を向けて
自分の両親が死んだと言うのに涙一つも
見せずに ショックで頭の中が真っ白に
なって泣けないと言うならまだ僕にも
分かった。
しかし姪は、人々の顔色を窺うだけで
自分が見捨てられない様に精一杯の
良い子になって人々の機嫌を損なわない
様にしているとしか僕には思え無かった
まだ子供だから仕方無いのかもしれない
だけど僕は何だかそれがとても許せなかった。
だから僕は気付けば姪に言葉を吐いていた。
『君は人を不幸にする 誰かの好意を
台無しにする だから君は誰も好きになってはいけないよ 特別を作ってはいけないよ』そう 思うがままの黒い感情を
姪にぶつけた。
しかし姪は、僕の言葉に泣くでも無く
怒るでも無く 僕を責めるでも無い
唯 申し訳なさそうに俯くだけだった。
姪のそんな態度に僕は、失望した。
反抗する力も無いとは なんて弱いんだ
姉さんも義兄さんもこんな脆弱な
人間を守る為に命を落としたのか....
自分の子供だから命を懸けて守ったって
言うのか.....
馬鹿馬鹿しい.... 結局弱々しいまま
姪は何も成長して居ない
治癒術を見込まれてバインダーと言う仕事をしていたと言っていたけどそれだって
他の人の陰に隠れて自分は助けて貰うのを
待って居るだけじゃ無いか
僕は、そんな姪に我慢ならなかった。
姪さえ居なければ姉さん達は生きていられた。
僕はまだ姉さんと一緒に居られたのに....
役立たずのままなら 僕が姪を役立たせて
あげよう そうすれば少しはあの子も
自分の役どころが分かるってものだろう
そうして彼は動き始める
しかし彼は知らなかった。気付かなかった。
自分の心がもうとっくの昔に壊れて居る事に
そうして 自分のその壊れた心を憎しみ
ごと受け入れて包み込んでくれる存在が
居るから自分はまともに立って歩けて
居ると言う事に....
そうしてその自分を包み込んでくれる存在が自分が理不尽に憎んで居る姪だと言う事に 彼は気付いていなかった。
1年前の続き
1年後
1年前友人に....
「お前流行に敏感になれとは言わないから
せめて最低限の身だしなみは、整えろよ」
と言われたので だぼだぼのシャツを
辞め 爽やかなすっきりとした白い
シャツを着て くすんだジーンズから
濃い水色のジーンズを履いて
髪も短く切って 上京して 1年後に
帰って来た友人の出迎えに行くと....
「いや....誰だよ!」と叫ばれ
驚かれた。
僕は、そんな友人の反応を見て 眉を下げ
苦笑したのだった。....
子供の頃は
子供の頃は、早く大人になりたいと願い
大人になると子供の頃は良かったと羨む
そんな身勝手で理不尽な相反する思いを
抱え人は大人になるにつれ無くして行く物
子供の頃には得られない物に憧れ
そうして自分を振り返り後悔したり
挫折したり はたまた また立ち上がったりして行く生き物なのかもしれない....。
あなたがいたからの続き
日常
シズクが居ない日常が 一ヶ月
二ヶ月 三ヶ月と続いた。
日常なんて 違和感があるのは最初だけで
徐々に慣れるのが普通だ。
だからこれは俺のメンタルの問題で
俺が未練がましく振り切れ無いのが
問題でシズク自身には何も関係なくて....
仕事が終わって帰っても バインダー局の中にあいつの姿は無い
いつもなら....
『皆.... おかえり.... 怪我...して...ない
大....丈夫....』そんな心配そうな声音で
聞いてくるシズクの声が聞こえて
皆の姿を見つけて安心した様なシズクの
笑顔が映って.... 「っ・・・」そこまで
考えてハイネは首を振る。
(駄目だ....俺 何やってんだ シズクに
執着し過ぎだろう....) あいつには
あいつの想いや事情があるんだから
俺にばっかりシズクの想いを縛りつけるのは間違ってるって分かってるのに....
あいつは常に皆の事を考えてて
その皆の中にちゃんと俺も入ってる
それは....分かってるのに....
それなのに俺は いつだって俺を
一番に考えてくれないかなぁなんて
醜い事を思ってしまう....
ハイネがそんな事を自宅で悶々と考えてると.... 途端に ピンポーンと家の玄関
チャイムが鳴った。
ハイネは立ち上がり急いで玄関のドアを
開けた。もしかしてと期待に胸膨らませる
自分を押し隠して....
すると....「あら はー君どうしたの?
そんなに急いでドアを開けて そんなに
私達に会いたかった!」にっこりと可愛らしく微笑むリンネと無言で佇むハイルの
姿があった。
ハイネは、二人に自分の姿を見られて
恥ずかしくなり「別に....」とぶっきらぼうに答えてしまう。
そして二人を自宅に上げるハイネ
「で....何の用だよ....」と横を向いて
二人に問いかけるハイネ
「あら用が無いと可愛い息子に会いにきちゃ行けないのかしら?」リンネは可愛いらしく小首を傾げて言う。
リンネのそんな言葉にハイネは舌打ちを
鳴らして 「もうガキじゃねぇんだし
一々用も無いのに来るなよ!お袋 親父」
そんなハイネのつれない態度にもリンネと
ハイルはいつもの事の様に嫌な顔一つせず
返す。
「あら 親にとって子供はいつまでも
可愛い者よ! それこそ命を投げ出しても
構わない位にね」そんなリンネの言葉に
無口のハイルも「そうだぞハイネ」と
同意する。
そんないつまでも自分を溺愛する二人に
ハイネはありがたい様な迷惑な様な複雑な
感情を抱き「うぜぇ....」と返す。
「あらはー君も溺愛してる子が居るなら
私達の気持ちも分かるでしょ?」そんな
リンネの悪戯っぽい返しにハイネは
「なっ....」とたじろぎ....
「べっ....別に....溺愛してる奴なんて...
いねェ....」とハイネは膝を抱えて自分の
顔を自分の膝に埋める。
リンネはそんな息子の態度を深く追求せず
「そう....でも もしそんな子が出来たら
はー君 絶対離しちゃ駄目よ
もし離してしまっても取り戻す位の気概を
見せなさい」とリンネは息子に向かって
力強く言う。それに続く様にハイルも
「ハイネ頑張れよ」と声を掛ける。
「っ....」ハイネは二人の言葉に何も言えなくなる。
どうして親って言うのは何も話して
無いのに見ていた様に的確に言葉を向けるんだ。
そうしてリンネとハイルは帰って行った。
二人を見送るとハイネは何かを決意した
様に立ち上がる。
そして相棒の鎌を手の中に出現させると
自宅の玄関ドアを開けて
外に飛び出した。
そうしてハイネは足取りを力強くさせ
バインダー局に向かうのだった。