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日常の続き

繊細な花

彼女を初めて見たのは、姉さんと義兄さんの家に遊びに行った時だった。

姉さんと姿形は、そっくりなのに
姉さんとは、まるで違う 僕の姪
凛とたおやかに堂々と咲く花が姉さんなら
姪は、儚げで繊細な花の様だった。

弱々しく脆弱で何をするにも挙動不審で
人の顔色ばかり窺うような目線をこちらに
向ける。

「どうだルーク君 家の娘は、世界一
可愛いだろう!」娘を自慢する様に
義兄さんが自分の娘を僕の前に出させる。
「こ....こんに....ちは....」姪が
聞き取りづらい小さな声で僕に挨拶する。
しかし義兄さんと姉さんはそんな娘の
弱々しい喋り方も気にならない様だった。

姉さんが「この子凄いのよルーク
私の怪我もあの人の怪我もまるで最初から
無かったみたいに治してくれるの」
姉さんがそう言って姪の頭を撫でると
姪は、嬉しそうに笑っていた。

そんな姉さんと義兄さんの言葉も僕は
唯 聞いているだけで何の感想も湧かなかった。

確かに顔立ちは、姉さんに似て可愛いかった でもそれだけだ 姉さんみたいな
清らかな誇らしさも無ければ
義兄さんみたいに姉さんを守れる強さも
無い 姪は誰かを守る強さが無かった。
誰かに守られるだけの臆病な人間だった。

そう だから姉さんと義兄さんは
死んだ この子を守る為に....

姪の治癒術は姪の性質と同じく弱々しく
脆弱だった。
何故この姪に治癒術が備わっているん
だろう....
「家の家系で治癒術を持ってる子が産まれるなんて初めてよ だから私とっても
嬉しいの!」そう姉さんは嬉しそうに
はにかんだ笑顔を僕に向けていたのに

僕に治癒術があれば良かった そうしたら
姉さんも義兄さんもきっと助けられた
そうしたらきっと二人はまだ生きて
いたのに....

二人のお葬式の日 姪は途方にくれた様に
周囲に視線をやっていた これから自分は
どうやって生きて行けば良いのか分からないと言う風に周囲に縋る様な目を向けて
自分の両親が死んだと言うのに涙一つも
見せずに ショックで頭の中が真っ白に
なって泣けないと言うならまだ僕にも
分かった。

しかし姪は、人々の顔色を窺うだけで
自分が見捨てられない様に精一杯の
良い子になって人々の機嫌を損なわない
様にしているとしか僕には思え無かった
まだ子供だから仕方無いのかもしれない

だけど僕は何だかそれがとても許せなかった。
だから僕は気付けば姪に言葉を吐いていた。

『君は人を不幸にする 誰かの好意を
台無しにする だから君は誰も好きになってはいけないよ 特別を作ってはいけないよ』そう 思うがままの黒い感情を
姪にぶつけた。
しかし姪は、僕の言葉に泣くでも無く
怒るでも無く 僕を責めるでも無い
唯 申し訳なさそうに俯くだけだった。

姪のそんな態度に僕は、失望した。
反抗する力も無いとは なんて弱いんだ
姉さんも義兄さんもこんな脆弱な
人間を守る為に命を落としたのか....

自分の子供だから命を懸けて守ったって
言うのか.....

馬鹿馬鹿しい.... 結局弱々しいまま
姪は何も成長して居ない
治癒術を見込まれてバインダーと言う仕事をしていたと言っていたけどそれだって
他の人の陰に隠れて自分は助けて貰うのを
待って居るだけじゃ無いか

僕は、そんな姪に我慢ならなかった。
姪さえ居なければ姉さん達は生きていられた。
僕はまだ姉さんと一緒に居られたのに....

役立たずのままなら 僕が姪を役立たせて
あげよう そうすれば少しはあの子も
自分の役どころが分かるってものだろう

そうして彼は動き始める
しかし彼は知らなかった。気付かなかった。
自分の心がもうとっくの昔に壊れて居る事に 

そうして 自分のその壊れた心を憎しみ
ごと受け入れて包み込んでくれる存在が
居るから自分はまともに立って歩けて
居ると言う事に....
そうしてその自分を包み込んでくれる存在が自分が理不尽に憎んで居る姪だと言う事に 彼は気付いていなかった。

6/26/2024, 6:28:33 AM