kiss
走る 走る どこまでも走る。
あの 黒い影が見えなくなるまで
仲間の元に行き着くまで....
私 獣人 草食型 シロウサギ
(♀) 名前アリス
私 アリスは、今 肉食獣に追われている。
早く 早く 群れの皆の所に...
でないと私は、殺されてしまう...
俺は、足を速めた 草食獣とは、
失礼千万の奴が多い。
ちょっと近づいただけで 食われるとでも
思うのか全速力で逃げて行く
基本 空腹の時しか 狩りは、
しないと言うのに
仮に空腹だったとしても あんな小さい
シロウサギなど狙うか
普段ならそのまま放っておくのに
何故かその時は、無性に腹が立ち
気付けば 追いかけていた。
俺 獣人 肉食型 ハイイロオオカミ
(♂) 名前ヒイロ
俺は、何故追いかけているんだろう....
何でこんなに意地になっているんだろう...
ただあいつが俺の姿を見て怯えて泣くから
悔しくて....
何で悔しいんだろう....
せめてあんなに恐がられるなら
人型で姿を現せば良かったと胸の中で
小さく後悔した。
何で私を追いかけて来るの?
こんな小さな身体の私なんて食糧にもなりはしないのに....
あの時 人型になって木の実を拾っていた
私は、ハイイロオオカミの姿を見て
不必要に怯えてしまった。
そのまま 何の気なしに 澄ました顔をして 通り過ぎていれば やり過ごす事が
出来たのに...
本能が危険を察知し我慢する事が出来なかった。
私は、獣型に姿を変えて 一目散に
逃げ出した。
もう少しで 私の仲間が居る村に入る
もう少し もう少し 後 少し
その時 ひょいっと首根っこを持ち上げられ 私の身体は、宙に浮いた。
気付けば、私は、人型の手の中に居た。
灰色の髪に 切れ長のブルーの瞳
均整の取れた 身体付きと 綺麗な顔をした 美青年が私を見上げていた。
そして... 「つかまえた...」その言葉に
私は、ぴくりと体を震わせる。
(あのハイイロオオカミだ...)私は、
あのハイイロオオカミの人型の姿だと
感知した。
私は、彼の手のひらからジャンプして
距離を取る。
気付けば私も対抗する様に人型に姿を
変えた。
俺は、あのシロウサギが自分の群れが居る
村の方に逃げ込むのだと察知し
何故か心に焦りが生まれ
気付けば 無意識に人型に姿を変え手を
伸ばし... 「つかまえた...」思わずそう
呟いていた。
するとシロウサギは、びくんと体を跳ねさせ 俺の手のひらからするりと抜けて
ジャンプし 俺から距離を取る
その瞬間シロウサギは、人型に変化した。
その姿を見た瞬間 俺の動きは刹那
止まった。
白く絹の様に滑らかな長い髪の毛
赤く燃える様な瞳 白魚の様な瑞瑞しい肌
その白い肌が映える様にぷっくりと膨らむ
桜色の唇 そのどれをとっても俺の目を
惹き付けた。
俺は、思わず手を伸ばし彼女の腕を取った。
彼女は、抵抗する様に 俺の手から逃れ様と自分の腕を俺から引き剥がそうとする。
俺は、逃がしたく無くて余計に手に力を
込める。
彼女の身体を俺の正面に向かせ
おどおどした彼女の視線を彼女の顎を
持ち上げて俺に向かせる。
すると 彼女の眦がキッと上がり
涙目になりながら俺を睨む。
俺はその視線を受けても何故か彼女を
離そうとは思え無かった。
すると彼女の口が動いた。
「・・・約束して私を食べたら他の仲間には手を出さないって!」
俺は、内心で、首を傾げる。
彼女は、何を言ってるんだろう...
元より俺には彼女を食べる気など最初から無い....
じゃあ何で俺は、彼女を追い掛けたのだろう.... 彼女が逃げるから・・・・
肉食獣が草食獣を追うのは、本能だから....
俺が自分の気持ちに戸惑っていると....
彼女の後方から 「アリス!」と声が
聞こえる。
彼女は、声のした方に振り向き駆け出そうとする。
俺は、思わず彼女の腕をまた強く引っ張り
彼女を俺の方にまた向かせる。
彼女は呆けた様な表情になり桜色の唇を
開けて俺を見上げる。
俺は、彼女のその表情から目が離せなくなり 気付けば 彼女の上を向いた唇に
自分の唇を重ねていた。
仲間の声が聞こえて私は、思わず気が緩み
足を踏み出し駆け出そうとする。
すると腕を後方に引っ張っられ
正面を向いた時には、綺麗な青年の顔が
其処にあった。
私は、気が緩んでいたせいもあり思わず
呆けた顔をしてしまっていた。
私が気付いた時には、青年の綺麗な顔が近くにあり そうしていつの間にか
私の唇は青年の唇と重なっていた。
「っ・・んっ・・・」私は、息をしようと
唇の吐息の隙間から必死に藻掻く
だけど甘い息遣いに翻弄され身体の熱が
上がり 思う様に抵抗出来なかった。
気付けば、私は、地面にぺたんと尻もちを
付き 立てなくなっていた。
青年はいつの間にか消えて居た
その内仲間達が私を見つけて 座り込んで居る私を心配し 覗き込んで来た。
私は、「大丈夫....」と仲間達に小さく
伝え 立てなくなっていた足を
仲間達に支えられながら 皆と一緒に村に
帰った 途中 皆に気付かれない様に
熱くなった顔を 手団扇で扇いで冷ました。
(あのハイイロオオカミは一体何だったんだろう.... 私を食べ様としてあんな事を
したんだろうか....
けど何故だろう.... 唇を重ねられたあの
瞬間だけは、あのオオカミの事が怖く
なかった....。)
私は、無意識に指を自分の唇に充てた。
俺は逃げる 誰も来ない所まで....
そうして息を切らし立ち止まる....
(俺は やっぱりあのシロウサギが
食べたかったんだ....)
俺は、唇の熱を指にも残そうと自分の唇に
触る。
口角が上がるのを自覚して
俺は、人型から獣型に戻り
山道を駆け上がり 自分の住処に戻った。
1000年先も
また いつか そう約束した言葉も
私達 長命種(エルフ)にとっては、
気軽な再会をする言葉だった。
またどこかで会えたら食事でも そんな風な 挨拶程度の言葉だった。
だけど私は 分かってはいなかった。
私達 長命種にとっては、十年 百年
千年など たったの数ヶ月に過ぎなくても
短命種(人間)にとっては、長い 長い
月日だと言う事に....
また いつでも会える そう思っていた
けれど それは、間違いだった。
私達と違って 人間にとっては、
百年 千年は、途轍もなく 果てしない
時間だと言う事を分かっていなかった。
姿が私が見ていた人とは、変わってしまうと言う事に 面影は、確かにある。
だけど私が知ってる 君とはやはり姿は
変わってしまった。
それでも中身まで変わってしまった訳では
ない...
あの頃の優しい君は、確かに私の側に居る。
それは、私にとっては、とても嬉しい事だった。
やがて 君との間に終わりが来た。
ゆっくり ゆっくりと 葬列が流れて行く
棺に入れられた君の身体
その表情は、穏やかで 満足そうだった。
私は、君の棺に手向けの花を入れて
君に向けて、にこりと笑う
そうして 小さく君の耳元に呟く
「忘れないよ....」この先 100年
200年 1000年先... 果てしなく
続く時の中で、私は、立ち止まり ふと
君の足跡を見つけるだろう....
そのたびに君を思い出す
だから 君は、いつまでも私の中で
生き続ける。
これからも ずっと共に....。
勿忘草(わすれなぐさ)
小さく寄り集まって 咲いている花を
お花屋さんで見つけた。
何て言う花ですか? と店員さんに
聞いたら 勿忘草です と言う答えが
返って来た。
勿忘草?聞いた事は、あるが あまり
身近に見掛ける花かと聞かれれば
多分 私は、首を振って否定を返すだろう
この小さい花弁が勿忘草と言う花だとは、
私は気付かないからだ。
見ると色も ブルー ピンク ホワイトと
三色あった。
店員さんは、嬉しそうに私の顔を見て
勿忘草の花言葉も教えてくれた。
花言葉は、色によって それぞれ違うらしい....
【勿忘草の花言葉】
ブルー 真実の愛 誠の愛
ピンク 真実の友情
ホワイト 私を忘れないで らしい...
私は、何となく その三色から
ホワイトの勿忘草を買った
勿忘草の名前と花言葉が何となく近い感じがして らしいと思ったから
後でその事を 恋人に話したら
君らしいね と笑われた。
私を忘れないで
いつか私が 皺くちゃのおばあちゃんに
なって 亡くなっても ふとした時に
私を思い出して 心に留めてくれます様に
なんて事を思ってわざわざ買った訳では
無いけど
貴方なら私が皺だらけのおばあちゃんに
なっても 最期まで愛してくれる...
それだけは、確信を持って思えるから
だから私は、ホワイトの勿忘草を
二人で鑑賞できる 窓辺の台の上に花瓶に
入れて置いた。
私を忘れないで もちろん私も貴方の事を
最期まで愛してる....。
ブランコ
公園のブランコに乗りたいのに いつも
先を越される。
「次貸してね!」って言ってるのに
なかなか貸してもらえない
しまいには、横入りされ
別の子がブランコに乗ってしまう
私は、泣き出して、
「次は、私だもん! ずっと並んでたのに」と 乗っていた子を突き飛ばして
転ばせた。
その子は、膝を擦り剥いて 鼻血を出して
泣き出した。
その内 大人の人が寄って来て
突き飛ばした 私を責めた。
どうして? 私が怒られるの?
代わってくれなかった子が悪いのに...
私はずっと待ってたのに....
理不尽だ 誰も分かってくれない
大人なんて嫌い!!
【20年後】
私は、大人になり二児の母親となった。
今 当時と全く同じ状況が目の前で
繰り広げられていた。
私の娘 はなちゃんが よその家の息子さんのたっくんをブランコから
突き飛ばしたのだ
当然 たっくんママは、激怒していた。
私は 深く深く頭を下げたっくんママに
謝罪した。
公園から家に帰る道すがら 娘は一言も
喋らず俯いていた。
「はなちゃん」と私は、呼び掛けてみる。
が返事はない
当時の私も不貞腐れて 一言も喋らなかったっけ....
親子だなあ...
私は、娘の頭を撫でる。
「はなちゃん 偉かったね! ちゃんと
順番守って 並んで 誰にでもできる事じゃないよ! 偉い 偉い!」
私のその言葉に娘は顔を上げて
大きな丸い瞳から 大粒の涙を零す。
私は、泣きじゃくる娘を優しく抱き締め
明日 幼稚園でたっくんに怪我させた事を
謝ろうと娘を諭す。
娘は、泣いて モヤモヤがすっきり
したのか 素直に頷いた。
「へえ~そんな事があったんだぁ~」
夫は呑気に晩酌をしながら昼間あった
出来事を説明する私に相槌を打つ
私は笑いながら...
「ねぇ 今思うと何であんなにブランコに
執着してたんだろう... 他にも公園の
遊具なんて いっぱいあったのに...」
「でも分かるかも 子供の目線からだと
ブランコって まるで空を飛んでいる
みたいになって 気持ちいいんだよなあ!」
「私に順番を譲りたくなくなる位
楽しかったんだあ!」と私は悪戯っぽく笑う
すると 夫は、バツが悪そうに
「あの時は、楽しすぎて 周りの声が
聞こえ無くて.... 悪かったと思ってるよ
でも あの時突き飛ばされたんだから
おあいこだろう... すげーあの時痛かったし...」
「そうだね...」私は嬉しそうに笑う
そう あの当時私は、ブランコを代わって
くれなかった男の子が大嫌っいだった。
それなのに 何の因果か 今は
一番大好きな人に変わっている。
大人にならないと今の気持ちが分からない
様に 子供の頃の私達だって 今の私達には分からないだろう...
なにせ 子供の頃の気持ちを大人になるまで持ち続けるのが難しい事なんだと...
正面のテーブル席に座る夫を見ながら
私は、しみじみと思ったのだった。
旅路の果てに
魔王を倒す聖剣を抜いて、旅立って十年
ついに魔王を打ち倒し 平和を取り戻した
我々パーティーは、王都に帰りたくさんの
人に感謝された。
馬車で国中を周り凱旋パレードをして
都の人達に恭しく挨拶をされ
握手を求められ
一日が終わりに近づいた夜は、
酒や食事や踊りを供され
ささやかな宴の中心になった。
この日を我々パーティーは、
待ち侘びていた。
長年 混沌に苦しんでいた
都の人達は、肩の荷が降りた様に
安堵の息を吐き笑顔を見せていた。
これで、我々の冒険は、終わった。
この宴が終わったらパーティーは
解散し また新たな道をそれぞれに見つけ
旅立つだろう...
旅路の果てに得た経験を財産に
また新たな旅路を進め
それぞれの安住の地の果てを見つけて
辿り着くまで...
我々パーティーのそれぞれの冒険は、
続いて行く。 .....。