下屋

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10/31/2023, 11:39:56 PM

「理想郷」

 わたしは、わたしと、わたしたちの為にここを作りました。皆わたしに賛同してくれる、素敵な場所です。他にこんなところはない。わたしたちが生きる為に、必要なのです。
 だけれど、あとひとつだけピースが足りない。君だ。君ですよ。どうして君だけが賛同してくれないのか。わたしは、君の為にここを……。

10/24/2023, 3:17:26 PM

「行かないで」

 あなたを引き止められたなら、こんな思いせずに済んだのでしょうか。
 でも、思うのです。きっとあなたは、私が引き留めようとしたとて、遅かれ早かれ遠くへ行ってしまったでしょうね。だから同じこと。変わらなかった未来だと。そう、思うのです。
 これは負け惜しみ。たったひとことが伝えられなかった私の、情けない私の、今もあなたを想ってしまう私の、負け惜しみ。

10/23/2023, 2:46:48 AM

「衣替え」

 長袖から半袖になるよりも半袖から長袖になる方が寂しいのは何故なのかな。
 服が重くなるから? 明るい夏が終わったことを実感するから?
 わたしたちが箱庭から卒業する日が近づいているから?

10/20/2023, 6:11:15 AM

「すれ違い」

 ふと鼻腔を掠めた香りに、遠い記憶を呼び覚まされる。我が青春の日々だ! 大いなる希望と少しばかりの不安とを抱えた、あの日々。
 あの頃わたしの隣にはいつだって彼女がいた。わたしたちはふたりでひとつだなんだと言われていた。それを聞いて彼女がどう思ったかは知り得ないが、少なくともわたし自身もそう思っていた。どこまでも、一緒なのだと。そう信じてやまなかった。彼女さえいればわたしはなんだってできると感じていた。
 だが、別れというのは案外あっけないものだ。わたしと彼女は進む道を違えてからというものの、すっかりと疎遠になってしまった。ドラマチックな決別というものもなく、単純に進むべき道が変わり、我々は互いに遠くへと言ってしまった。今考えてみれば、わたしたちの出逢いというのは、交差点のようなものでしかなかったのかもしれない。

 振り返り、香りの主の姿を探してみる。しかし、そこには思い当たる姿がある訳でもなかった。まあ、所詮、こんなものなのだろう。

10/18/2023, 9:17:17 AM

「忘れたくても忘れられない」

 この季節になると君のことを思い出すよ。微睡みながらゆっくりとまばたきをする君のことを。
 でもあの頃には既に僕達の関係は破滅へと向かっていたね。季節が少しずつ冬へ向かって移ろいゆくように。僕と君は、あの夏のような情熱を遠くに置き去りにしてきてしまった。
 それにも関わらず僕に縋ろうとする君は、まるで醜かった。君ではないと思いたいくらいに。だから僕は君が、君であるうちにお別れをしたかった。急いで、急いで、急いで。今すぐに!
 そうして、あの時君に触れた感触が、今も僕の手にべったりとまとわりついて離れないんだ。

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