彼からの着信。
「窓の外見て」
私は病院の少し高い窓の縁に座り顔を出す。
ケータイを耳に当て見上げて手を振る彼。
隣にはいないが映像ではない彼の顔を見た途端、
パブロフの犬のように条件反射した。
彼の優しい声、穏やかな表情が
2人ですごした日々を思い出させる。
少し他愛もない話をしたあと、
「愛してる。じゃあね。」一言そう言って通話を切り車に向かう彼を窓から見送る。
久しぶりに顔を見れた嬉しさからか、寂しさからかは分からない。ただ、涙が止まらなかった。
『ベルの音』
やっと住み慣れはじめた家、
お気に入りのキッチン。
夕飯を作る最中ふと目線を横にやると
テレビを見ていた彼が振り返り私に微笑む。
なんてことはないが、とても幸せな時間。
病室のベッドの上で
そんな白昼夢に浸っていた。
それからどれほど経っただろう。
明るかったはずの窓の外はいつの間にか暗く、
街灯の微かな光だけが差し込んでいた。
『寂しさ』
夏、私のお腹に小さな命が宿ってからというもの
あれやこれやと忙しなく過ぎてゆく日々。
四季の中で一番好きな季節がやってきた。
人恋しさや寂しさは目立つが
大切な人ができた今、彼の温もりを
1番近くで感じられる。
…はずだった。
予期せぬ入院。
病室で1人、持ってきた彼のシャツを抱きしめ、いつ来るか分からない退院日を涙をぐっとこらえながら耐え待つ。
お腹の子が外の世界を見るまでに。
暖かい陽気が訪れる前に。
私のささやかな願いそれは、
ほんの少しでも貴方と…
『冬は一緒に』
「風邪なんて滅多にひかない」
そう私に言った彼
出会ってから1年も経たない私たちだけれど
その間に何度体調を崩してきただろうか
普段は頼もしいクールな彼が
弱ると一気に寂しがり屋になって
心配しつつも可愛くて頬が少し緩む
そんな私に不満そうな顔を向け強がる彼が
たまらなく愛おしく感じてしまう
『風邪』
2人で見るはずだった初雪は
なんの悪びれもなくやってくるだろう
大好きな冬の訪れを感じることが出来なかった悔しさと、2人で初めて過ごす冬を越せないのではないかという不安が押し寄せてくる
私が動けなくなってからほんの数週間
暖房で暖まりすぎた病室の窓を開けると、来た時はまだほのかに熱を含んでいたはずの空気がキリリと鋭く私の頬を刺す
『雪を待つ』