押し入れの戸を開けると、そこには花束が隠されるように置いてあった。
おそらく明日が結婚記念日なので、夫が私に渡すための花束だと思われる。
そのプレゼントを見つけてしまった私の今の気持ちを述べよ(配点10)
答え:もっとうまく隠せよ
一秒にも満たない現実逃避から、通常モードへ復帰。
復帰して初めにやることは、ため息を出すこと。
こういうのって当日に買うものでは?
悶々としながら、押し入れを閉める。
前からあの人はうかつだと思っていたが、まさかここまでとは……
あの人はサプライズ好きで、なにかと私を驚かせようとする。
が、詰めが甘く、たいていの場合それを実行する前に目論見が露呈する。
今回もサプライズで花束をプレゼントするつもりだったのだろうが、ご覧の有様だ。
花束をくれること自体は嬉しいんだけどね。
さて知らないふりをして花束をもらうべきか……
それとも指摘するべきか……
それが問題だ。
いや待てよ。
第三の選択肢を思いついた。
私がサプライズをすればいい。
なぜ今まで思いつかなかったのか。
善は急げ。
今すぐ花束を買いに行こう。
今までもらってばかりだったが、私からのプレゼントもいいだろう。
きっと驚くぞ。
しかしそうなるとバレないように隠す必要があるな。
うーん、隠す場所隠す場所。
まあ無難に押し入れでいいだろう。
今から夫のリアクションが楽しみだ。
🌹 🌹 🌹 🌹 🌹
押し入れの戸を開けると、そこには花束が隠されるように置いてあった。
おそらく今日が結婚記念日なので、妻が僕に渡すための花束だと思われる。
そのプレゼントを見つけてしまった僕の今の気持ちを述べよ(配点10)
『スマイル 値上げへ』
手に持った新聞の一面にはそう書かれている。
なんというセンセーショナルな見出しだろうか。
私は寝起きにもかかわらず、一気に目が覚めてしまった。
スマイルというものは0円のはずだ。
いったい何が起こったというのか?
朝の支度もせずに新聞を読み込む。
『近年の急激な物価高により利益が確保できず』、『またスマイルを提供する人材の人件費が高騰』、『もともと利益が確保できていなかったため今回の値上げに踏み切った』と書いてある。
なるほど、どうやら時代の流れらしい。
スマイルは登場以来ずっと0円だった。
だが企業努力ではもう限界なのだろう。
これもまた一つの時代の終わり。
諸行無常、変わらないものが無いのは分かっているが、それでもどこか寂しさを感じる。
私は急にスマイルが欲しくなった。
普段は何とも思わなかったくせに、手に入りにくくなると急に物欲しくなる。
我ながら最低だな。
だが欲しい物は欲しい。
家を出て近所で一番近い店に向かう。
店に着くと、朝が早いにもかかわらず、行列ができていた。
みんな朝の新聞を読み、スマイルが欲しくなったのか……。
お店的には売上が増えるが、複雑な心境であろう。
そんな何の役に立たないことを考えていると、ついに自分の番がやってきた。
何も考えていなったが、とりあえず目についたセットとスマイルを注文する。
すると対応してくれた店員は、即座にスマイルをくれた。
うむ、いい笑顔だ。
私はそういえば、と思って聞きたいことを聞くことにした。
新聞には値上げの事が書かれていたが、値段のことは書いてなかったのだ。
「新聞にスマイル値上げって書いてあったんですけど、いくらになるんですか?」
言った後で、忙しい中こんなことを聞くのは迷惑だということに気づく。
慌てて訂正しようとするが、店員は気を悪くした風もなく笑顔で答えてくれた。
「お客様の笑顔です。
実は先ほど無料分の笑顔が切れまして、お客様より有料となります。
ではお客様、笑顔をどうぞ」
『どこにも書けないこと』というお題なので、誰にも言ったことが無い話をします。
私が3年前の事です。
当時、私は知らない街を散歩することが趣味で、学校が休みの日にはよく出かけて散歩していました。
太陽が照り付ける暑い夏の日でした。
その日も知らない街を歩き、知らない街並みを堪能していました。
ですが気が付くと周りの景色が変わっていることに気が付きました。
建物が廃墟しかなく、木も枯れ木で、なんとなく地獄みたいだなと思ったのを覚えています。
しかし私は慌てませんでした。
稀にですが、異世界のようなところに迷い出ることがあり、今回も『またか』くらいにしか思ってませんでした。
なのでそのまま歩いて、そのうち帰れるだろうと思ってました。
ですが道を歩いているうちに妙な音が聞こえてくるようになりました。
どうやら私が向かっている方向から聞こえているようで、道を進むほど音は大きくなっていきます。
私は不思議に思いながらも歩いていると、大きく開けた場所に出ました。
そこには二つの影がありました。
人ではなく、鬼です。
赤鬼と青鬼。
じゃあその二匹が何をしていたのかと言うと、血みどろの争いをしていました。
嫌な予感がしました。
なぜ争っているのかは分かりませんが、鬼に見つかると大変な事になります。
この二匹に気づかれないようにすぐさま引き返そうとすると、足元にあった枝を踏み音を立ててしまいました。
音に気づいた二匹が私の方を見ました。
その時の私の恐怖が分かりますか?
私はそのまま背中を見ずに走り出し、一目散に逃げました。
どれだけ走ったのか、いつの間にか家の前に立っていました。
これが今まで誰にも話さず、どこにも書かなかったことです。
こんなのどこにも書けませんよ。
だってこれを見た鬼が私を見つけるかもしれません。
でも皆さん不思議に思われますよね。
なんで今頃になって書いたのかって。
実は最近ずっと視線を感じているんです。
ここ一年の間、ずっと誰かが見ている気がするんです。
外にいても、家の中にいても……
私は疲れました。
もう楽になりたいのです。
これを書いている間に、部屋の外から物音が聞こえてきました。
彼らがやってきたのでしょう。
やっと楽になれ
旅の途中で倒れたところ、近くの村の人に助けてもらった。
そこで山賊が暴れていることを聞く。
血も涙もなく、近くを通る人間を見境なく襲うので、みんな困っているという。
私は自分の剣術には自信がある。
私は助けてもらった恩義で山賊を退治することにした。
一宿一飯の恩義に報いるためでもあるが、手柄をあげたい気持ちがあったことも否定しない。
もちろん村の人たちは無謀だと言って私を止める。
自分たちが我慢すればいい事、死ぬことはない、と。
優しい人たちである。
だが私はなんとか村人から山賊のアジトの場所を聞き出し、そこに赴いた。
だが――
「観念するがいい。貴様の命もここでお終いよ」
「くっ」
私は今膝をついていた。
私は剣には自信があった。
だが、山賊は私より強かった。
始めの一振りで刀は弾き飛ばされた。
次の一太刀で切り殺されることを覚悟したが、なぜか切られることは無かった。
その隙に刀を拾い上げ、山賊と対峙するも再び刀を弾き飛ばされる。
そしてその時も次の攻撃が来ることは無く、再び刀を拾う。
何度か切り結んだあと、私は気づいた。
山賊は私で遊んでいるのだ。
その事実に身が震える。
山賊との差はそこまでなのか……
「気づいたか。そうさ、俺は手加減している。
だが落ち込むことは無い。
何度かやれば、一度くらい剣が当たるかもしれんぞ」
絶対そんなことは無いがな。
そんな意味を言外に含み、山賊は笑う。
その後も私は山賊に切りかかった。
その度に刀を弾き飛ばされ、そして拾わされる。
何度挑もうとも、山賊には刀が届かない。
勝てない。
その言葉が頭を駆け巡り、一歩後ずさる。
「終いだな」
そう言うと、山賊は私の刀を遠くに弾き飛ばした。
次は無いということだろう。
恐怖が体を支配する。
「なかなか楽しめたよ。じゃあな」
山賊は持っていた刀を振りかぶり、私を切り殺そうとした、まさにその時――
「ポッポー、ポッポー、ポッポー」
背中から鳩の鳴き声が聞こえる。
「なんだあ」
山賊は鳩の鳴き声に驚いたのか、動きが止まる。
「なんだ、南蛮から来た商人から取り上げた時計かよ。間の悪い」
「南蛮……時計……」
振り返ると巨大な時計が鎮座していた。
それは見事な鳩時計であった。
知り合いの商人に見せてもらったことがある。
時間を示す南蛮のカラクリであると。
そのことを思い出すと同時に、私はこの時計に勝機を見出した。
うまくいくかは分からないが、この手段にかける。
私は時計に飛びつき、時計の針をもぎ取る。
「貴様!」
山賊が危険を感じたのか、振り上げた剣を振り下ろす。
だが遅い。
私は山賊の剣を時計の長針で受け止める。
重い衝撃が腕に伝わるが、耐えれないほどではない。
「何!?」
山賊は予想外の事態にうろたえる。
私は山賊が態勢を整える前に、もう片方に持った短針で山賊の心臓を正確につく。
「馬鹿な……」
その言葉を最後に山賊は地面に崩れ落ち、二度と起き上がることは無かった。
こうして山賊は退治され、村に平穏が戻り、人々から感謝されたのであった。
⚔ ⚔ ⚔ ⚔
これが日本で使われた二刀流の最古の記録と言われています。
このこのエピソードからも分かるように、片方で敵の刀を防御し、もう片方で攻撃する。
この攻防一体の構えが評価され、のちの時代に多く使われました。
例えば戦国時代、織田信長好んでこの構えを使い、日本の戦争を変えたと言われています
また明治維新の時にも、多くの侍たちに使われ、外国から来た黒船を何隻も沈めたことは、皆さんのご存じの通りです。
最近までこの記録は偽物だと思われていましたが、他の資料が見かったことで研究が進み、この記録は本物であることが判明しました。
では最後に一つ。
分かっているとは思いますが、大嘘です。
信じないでね。
私は彼女を見た瞬間、体に電撃が走った。
一目ぼれと言う奴だろう。
あの子が欲しい。
そんな気持ちが溢れる。
だが私もいい年をした大人だ。
だから私は自分に気の迷いだと言い聞かせ、その場を去った。
しかし、家に帰り、風呂に入っても忘れることはできなかった。
布団に入り
きっと一晩眠れば忘れるはずさ。
そう思っていた。
だけど、次の朝になっても、思い出されるのは彼女の事ばかりだった。
そこに至ってやっと私は自分の過ちを認めた。
これは恋なんだと。
彼女に会いに行こう。
幸い今日は休日だ。
朝から今から準備すれば、朝の内に会いに行けるだろう。
急いで着替えを済ませ、家を出る。
だが車の運転席に乗り込んだ時、冷静な部分の私がささやく。
『あれほど美人だよ。手遅れかも』
その言葉に私は一瞬ためらう。
しかし、ここで行かなければ、私は一生後悔するだろう。
『やらない後悔より、やる後悔』
誰が行ったかは覚えていないが、偉大な言葉である。
私はその言葉に勇気づけられ、車を出発させる。
もう迷わない。
待っていろよ――
車で一時間、目的の場所に着く。
目の前にあるのはホームセンター。
彼女はここにいる。
怪しまれないよう、でもできるだけ早く歩き店内に入る。
昨日、彼女がいた場所はいるだろうか?
心臓が高鳴るのを自覚しながら、その場所を見ると、彼女は昨日と変わらない姿で佇んでいた。
私はすぐさま駆け寄り、彼女を抱きしめる。
もう離さない。
そして私は綺麗に咲いた『アジサイ』を抱きしめてレジへ向かう。
会計の際、不覚にも手放してしまったが、きっと彼女も許してくれるはず、多分。
すべての用事が終わった店から出て、車に乗り込む。
助手席に彼女を座らせ、車のエンジンをかける。
そしてもう一度彼女を見る。
綺麗に咲き誇る彼女は美しい
やはりアジサイはいい。
これが彼女と出会った時の話。
彼女は今もベランダにいる
P.S.
お気づかれた方もいると思いますが、自分の実話です。
もともとアジサイは好きなのですが、その時初めて見た品種のアジサイに心を奪われ、家に迎え入れました。
アジサイは、いいぞ。