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12/28/2023, 9:57:39 AM

 昔、国語の教科書に載っていた、狐が手袋を買いに行く話が好きだった。
 小学生の時に読んだと思うが、今の小学生はその話を習うのだろうか?
 子供のいない私には確認しようがない。

 あの話は今でも覚えている。
 小学生の頃のことはほとんど覚えていないのに、この話だけははっきり覚えている。
 自分のことながら他人事のように言うが、何度も読んだのだろう。

 なぜ突然このことを思い出したのかというと、目の前に子狐が現れたからだ。
 きれいな毛並みで、とても野良とは思えない。
 その大きな目で何かを訴えてくるように、こちらを見つめてくる。

 食べ物が欲しいのだろうか?
 欲しがっても食べ物を持ってないからあげられないし、あげてちゃ駄目なんだけど……。
 何も持っていないという意思表示で、両手をあげて手のひらを狐に見せる。
 鹿せんべいを持っていないときの、鹿へのアピール方法だ。
 だが伝わらなかったのか、子狐は動こうとしない。
 どうしよう。

 お互いじっと見つめ合っていたが、何かに気づいたのか子狐はこちらに近づいてきた。
 動揺して固まっていると、狐が何かを咥えてことに気づいた。
 さっきまで何も咥えてなかったはずだが、不思議である。
 そして子狐は私の足元に、ポトンと咥えた物を落とす。
 くれるのか?

 しゃがんで落とした物を手に取ると、それは手ぶくろだった。
 さっき私が手を見せた行為を、手ぶくろが欲しいと勘違いしたのだろうか。
 それにしても、なんで手ぶくろを持っているんだ。
 いろいろ考えていると首元がふっと寒くなる。

 視線を上げると、遠くで子狐が私のマフラーを咥えているのが見えた。
 やられた。
 私は狐を追いかけようとしたが、すぐに物陰に入り姿が見えなくなる。
 どうやらマフラーは諦めなければならないようだ。

 なるほど、狐たちも寒いからマフラーが欲しかったということか。
 気持ちは分かるが今度は私が寒いのだけど……。

 狐にもらった手ぶくろをみる。
 しかし、明らかに小さく私が使えるようなものではなかった。
 子供用かな。

 しかしどこかで見覚えがある手ぶくろだ。
 と思っていると、あることに気づく。
 これは童話に出てくる狐の手ぶくろだ。
 見覚えがあるはずである。

 もしかして狐の手ぶくろを作る人がいるのだろうか。
 そんな事を考えて、ちょっとほっこりしながら家に帰った。
 その帰り道は、なぜか少しも寒くなかった。

 狐につままれるような話でした。

12/27/2023, 9:45:05 AM

 スーパーの卵の値段を見て、大きくため息をつく。
 最近どうにも卵の値段が高い。
 変わらないものはないとは言えど、やはり変わらないでいて欲しいものはある。

 卵の値段以外もいろいろ変わった。
 他の食材や、光熱費、社会保険料、ガソリン。
 悪い方にばかり変わっていく。

 自分の給与は変化がないというのに、これは一体どういうことか?
 世の中の不公平のはいつになっても変わらない。
 これを一番変えて欲しいんだけどなあ。

 頭の中で、愚痴を言っていると、小学三年生になったばかりの息子が買い物かごに何かを入れたのが見える。
 見なくても分かる。
 お菓子だ。

「お菓子は買わないって言ったでしょ」
「お菓子じゃないよ」
 違うと言われたので、かごの中を見る。
 お菓子だった。

「お菓子じゃん」
「それはママへのプレゼント」
 プレゼントと言われれば嬉しいが、ママはダイエット中なのでお菓子を食べません。
 知ってるよね。

「僕のはこっち」
 と、指をさした方を見ると、小さなノートが入っていた。
「ノート?何するの?」
「勉強」

 べん、きょう?
 私は一瞬耳を疑う。
 君、勉強嫌いだよね。

「本当に勉強するの?
 『もう勉強しない!』って、この前言ってたじゃん」
「んー、最近勉強が楽くなってきた」
「へぇー」

 褒めるかどうか、悩みどころだ。
 本当に勉強する気があるのかもしれないが、実際にするかは別問題だ。
 ソースは学生時代の私。
 少し考えて、結論を出す。
 よし、おだてて勉強をさせる方向で行こう。

「すごい。勉強楽しくなっちゃったか。
 じゃあ、勉強しないとね」
 そう言うと、息子は嬉しそうに笑う。

 レジに向かう間も、ほめちぎり勉強のやる気を出す。
 この様子を見れば、家に帰っても勉強をするはずだ。
 一時間くらいは…。

 しかし、この息子が勉強したいなんて言うとはね。
 小学生に入ってから、勉強が嫌いだ嫌いだって言っていたのに変わるものだ。
 いい先生が担任になったのだろうか。
 変わらないものはない、ということか。
 よい方向に変わったことに、少しうれしくなる。

 しかも息子が率先して買ったものを袋詰めしてくれている。
 成長したなぁ。
 感心しながら様子を見ていると、あることに気づく。
 なんと、お菓子が二つに増えていた。

 君、そういうところは本当に変わらないよね。

12/26/2023, 9:57:01 AM

 世の中の皆様の中には、クリスマスの日に恋人と過ごす人も多いだろう。
 だがクリスマスは私にとって、一年のうち最も気が張る一日である。

 別に恋人の彼氏が嫌いなわけではない。
 彼は毎年12月24日の夜は、仕事で出かけてしまう。
 そして翌日25日、仕事を終えて疲労困憊の彼を、いろいろフォローしないといけないからだ。
 勘違いしないでいただきたいが、別にフォローするのが嫌なわけではない。

 私はドジな性格で、むしろクリスマス以外はフォローしてもらっている。
 なので、一日だけ彼の世話をするのは、むしろ恩返しになり嬉しいのだ。

 じゃあ、なぜ気が張るのか。
 彼には大きな秘密があるのだが、それを知らないフリをしないといけない。
 その秘密とはなにか、言わなくても分かるだろう。
 そう、恋人はサンタクロースなのです(ばーん)。

 一度軽くカマをかけたことがあるのだが、その時とんでもない絶望の顔をしていたので、バレてはいけないのだろう。
 もちろん普段は秘密がばれないように、うまく立ち回っている。
 付き合ってから、初めてのクリスマスまで少しも疑いもしなかった。

 でも、クリスマスの日だけは、疲労のために彼はポンコツになる。
 サンタの服が脱いだまま彼の部屋に投げてあったり、プレゼントを配るための子供のリストが投げてあったり。
 そういえば、トナカイを連れて帰ったときもあるな。

 そのあたりまでは‘疑惑’レベル、というか疑惑だと信じたかった。
 決め手は、迎えに来てくれと言って迎えに行くと、空飛ぶソリから降りているところを目撃してしまったことだ。
 あれは言い訳できんよ。
 何も気づいていないフリをするのは大変なのだ。

 そして、今年のクリスマスの日、彼の部屋の前までやって来た。
 一度深呼吸する。

 大丈夫、私はあらゆる状況を想定して、イメージトレーニングした。
 どんなに予想外のことがあっても、なんとか出来たじゃないか。
 今年もうまく切り抜けることが出来る。
 そう何度も自分に言い聞かせる。

 そしてもう一度深呼吸して、呼び鈴を鳴らす。
 少しの静寂ののち、彼がドアを開けて迎え入れてくれる。
 その彼を見て、私は固まってしまう。
 さっそくハプニングだ。

 今日の彼は、着替えていないのかサンタ服のまま。
 なんとかリアクションせずに部屋に入ると、部屋の中にはトナカイが3匹いた!
 思わず目をそらすと、その先にはソリがフワフワ浮いている。
 よく見れば、ソリの中に酔いつぶれた知らないおじいさんがいる。

 自分でも顔が引きつっているのが分かる。
 これは想定外だ。

 これ、どうやって知らんぷりしよう。

12/25/2023, 9:58:29 AM

 僕は今、サンタみたいにプレゼント配っていた。
 サンタじゃなくて、僕がプレゼントを配っているのには理由がある。

 今朝怪我をしているサンタクロースを助けた。
 その時に頼まれたんだ。
 自分は怪我で動けないから、僕に代わりに配ってほしいって。

 最初は無理だって断った。
 小学生に頼むことじゃないって。
 だけど、サンタクロースが使う魔法の道具を使っていいって言われて、好奇心でOKしてしまった。
 大変だったけど、道具を使ってなんとか配ことができた。

 配り終えたことをサンタに報告すると、頭を撫でながら褒めてくれた。
 そしてサンタは僕の分だと言って、プレゼントを一つくれた。
 そういえば、自分の分を忘れていた。

 自分の部屋に戻ってから開けよう。
 そう思ってたんだけど、部屋に着いた途端、疲れていたからすぐ寝てしまった。 

 次の朝、起きてからすぐにプレゼントの事を思いだす。
 昨日プレゼントを置いた机の方を見ると、なぜかプレゼントが二つあった。

 サンタにもらった分と、それとは別のプレゼント。
 自分の分はもらったのに、なぜもう一つあるんだろう。

 もう一人、サンタいるんだろうか。
 でもそれなら、僕じゃなくてその人に頼めばよかったのに…
 ずっと考えても、理由は分からなかった。

 不思議なこともあるもんだ。

12/24/2023, 9:26:42 AM

 僕は門限をあんまり守ったことはない。
 遊んでいると、時間はあっという間に過ぎるから仕方がないんだ。
 いつも怒られるけど、門限が早すぎるのが悪い。
 友達の家は五時なのに、ウチは四時半。
 お母さんにも言った事あるけど、ヨソはヨソ、ウチはウチって言って変えてくれなかった。

 今日も門限を五時半に家に帰ると、お母さんの様子がおかしかった。
 お母さんがリビングで泣いているんだ。
 いつもは怒るのに、なぜ泣いているんだろう。

「お母さん、どうしたの?」
「たっくんが悪い子だから泣いているの」
「門限守らなかっただけじゃん」
「それは悪いことだよ」
 声がしてビックリして振り向くと、知らない男の人が立っていた。

「誰?」
「サンタクロースだよ」
「嘘だ」
 だってサンタクロースは赤い格好をしているけど、男の人は黒い格好している。
 サンタクロースじゃない。

「本当だよ、たくやくん。
 もっとも私は悪い子のところにやってくるサンタクロースだけどね。
 クネヒトって呼んでくれ」
 クネヒトって名乗った男の人は、ボクをじっと睨む。
 コイツは多分悪いやつだ。
 お母さんを守らないと。

「よくもお母さんを泣かしたな」
「それは言いがかりだ。泣かせたのは、たくやくん、君だよ」
 クネヒトは意味不明なことを言う。
「どういう意味?」
 ボクは門限を破ったけど、泣かしてはいない

「私はね、悪い子を連れて行くのが仕事なんだ」
 連れていくって言葉に、ボクはドキッとする。
「君が悪い子だから、お母さんは泣いているんだ」
「ボクは悪い子供じゃない」
「本当に?」
 クネヒトはボクの目を見てくる。
 まるでボクの心の中を読もうとしているみたいだ。

「門限を守らないことは、悪い事だよ。
 そして今日も守らなかった。
 違うかい?」
「それは…」
 ボクは答えに一瞬つまる。

「それは…。門限が早すぎて守れないんだ」
「なるほどね。それは仕方がない」
 クネヒトは納得したようにうなずく。
 大丈夫かもしれない。

「じゃあ、お母さんの方を連れて行こう。悪いのはお母さんだからね」
「それは―」
「クネヒトさん」
 泣いていたお母さんが、僕がしゃべるのを遮る。

「この子を連れて行かないでください。
 私が悪いんです。この子は悪くない」
 ボクはショックを受けた。
 なんでお母さんはそんなことを言うんだ。

「分かった。お母さんの方を連れて―」
「待って」
 ボクは大声を出して、クネヒトを止める。
「悪いのはボクだ。お母さんは悪くない」
「たっくん…」
 お母さんはボクが守る。
「これは困ったな。どうしようか」
 クネヒトは困っているようだ。

「ホーホーホー。あんまり意地悪するもんじゃないぞ、クネヒト」
 声の方を見ると赤い格好をしたおじいさんが立っていた。
「サンタさん!」
 ボクは思わず声を上げる。

「ホーホーホー。
 たくやくん、安心しなさい。
 クネヒトは、君もお母さんも連れて行かないよ」
「本当?」
「ホーホーホー。本当だとも」
 サンタさんは優しく笑っていた。

「ホーホーホー。
 確かに門限を守らないのは悪いことだ。
 でもお母さんを守ろうとするのは、とてもいい事じゃ」
 サンタさんは僕の頭を撫でてくれる。

「ホーホーホー。
 君は本当は優しくていい子だ。
 儂はちゃんと見ておる。
 だが、門限を破るのはいけないな」
「うん」
 ボクは頷く。

「ホーホーホー。
 クネヒトは君を連れていくつもりは最初からないんじゃ。
 たくやくんが、最近悪い子だから注意しに来ただけなのじゃよ」
「そうなの?」
 クネヒトの方を見ると、彼は黙ってうなずいた。

「ホーホーホー。
 じゃあ、明日からちゃんと守るんじゃぞ」
「分かりました」
「もし守らなかったら、私が来て、君を連れて行くからね」
「わ、分かりました」

「ホーホーホー。
 じゃあ儂らは用事が済んだから帰ろうかの」
 そう言って二人は帰ろうとする。
「あ、待って。えっと」
 プレゼントは?って言おうとしたけど、やめた。
 だって、サンタさんの言う通り、最近悪い子だったから。
 もらえるわけがない。

 でもサンタさんは僕の心を読んだように、優しく微笑む。
「ホーホーホー。
 たくやくん、これからお母さんのお手伝いをしなさい。
 そうすれば、今夜プレゼントを持ってきてあげよう」
「分かりました」
 ボクは元気よく答える。
 お母さんの方をみると、ちょっと笑っていた。

「ホーホーホー。
 もうお母さんを困らせては駄目じゃよ」
「はい」
 その答えに、二人のサンタクロースは満足したようにうなずいた。

「ホーホーホー。
 いい子でいるんじゃよ。
 メリー クリスマス!」

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