G14(3日に一度更新)

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10/8/2023, 7:10:48 AM

「待って」
思わず、去ろうとした彼の手を握る。
やっちまった。
その言葉が頭の中を駆け巡る。
やってしまったことは仕方がないので、振りほどかれないように、力を込めて握る。
振り返り、怒ったような顔で私を見る。
そりゃそうだ。
さっきまで別れ話をしていたのだ。
これ以上何の話があるというのか。
衝動的にとはいえ、引き止めてしまった。
なにか言わなければと思うが、頭が真っ白で何も出てこない。
このままでは、無事に別れることはできない。
別れる?別れる!
その時、別れるという言葉に天啓を得た。
彼の顔を真っ直ぐ見る。
「さよなら」
そう言うと彼は少し困った顔をして、
「さよなら」
と返してくれた。
よくある別れの挨拶。
こうして私と彼は別れた。
そして私の手から、彼の手がスルリと抜ける。
これ以上引き止めてはいけない。
彼には次があるのだから。

「カーット」
監督の声が響く。
その言葉に、現実に引き戻される。
私は周りに聞こえるように声を出す。
「すいません。台本にないことしちゃって‥」
「いいよ。アドリブ良かったし、君のアドリブは有名だからね」
思わず苦笑する。
視界の端に去っていった彼が戻ってくるのが見える。
「びっくりしましたよ。だめかと思いました」
「ごめんね。私、役に入り込んでしまうの」
大丈夫ですと彼は笑う。
「じゃあ、僕この後別の収録あるんでもう行きますね」
頑張ってねと、衝動的に手を差し出す。
また、やっちまったと思ったが、彼は握手に応じてくれた。
彼の素敵な笑顔を見て、握手の手に自然と力がこもる。
仕方ない。
君は私の好みのタイプど真ん中だからね。

10/6/2023, 12:16:00 PM

やっぱりあの時はああすればよかった。
国を統べる王とはいえ、そう思うことはいくつもある。
たとえワシほどの賢王でさえだ。
特に今回のことは反省している。

勇者の旅立ちの日。
勇者の紋章が出たというから、送り出しをしてやったというのに、あいつ不満そうだちゃもんな。
10goldもやったのに。
やっぱり、不敬で処刑しとけばよかった。
魔王を倒すならばと、我慢してまった。
伝説の勇者だからと調子に乗りやがって。

娘を助けて戻ってきたときも、仲良く手を繋いだりしてた。
娘がどうしてもと言うから、処刑はなしにしてむち打ちですませてやった。
寛大な措置に感謝するどころか、睨みつけてきやがった。
あの顔を怖がって、娘が部屋から出てこなくなったしな。
今思い出しても腹が立つ。

そういえば、あいつがいて良かったこともあったな。
伝説の勇者の武具を探し出したのは褒めてやりたい。
おかげでわしの自慢のコレクションが充実した。
後世の人間はワシを称えるだろう。

だがヤツは勇者魔王連合とか、ふざけたことをして、城を攻撃してきた。
この美しい城に傷をつけるなど万死に値する行為だ。
挙句の果てに民衆を脅し、軍をたぶらかして引き込んだことも許せん。
それらは王の所有物だと言うのに、かすめ取るとは。

ふむ、色々考えてみたがむしろワシのほうが迷惑している。
ワシを悪者呼ばわりするが、むしろ被害者である。

そういうわけで、ワシは無罪であり被害者であり、ワシを処刑することは国の損失である。
この処刑は即刻中止にせよ。
今なら誰にも罪を問わぬ。
いやワシが悪かった。
だから処刑を中止にー

10/5/2023, 12:23:02 PM

俺が星座に興味がないのには理由がある。
俺も小さい頃は、星が大好きでよく望遠鏡を覗いたもんさ。
将来は星を研究する博士になるのが夢だった。

あれは七歳の頃だったか、妖怪に出会った。
出会ってしまったんだ。
その妖怪は言った。
「お前の夢、美味そうだな。食ってやる。寄越せ」
そう言ってあいつが手をかざすと、俺の胸から小さな光の玉が出たんだ。
その光の玉は、ゆっくり妖怪のほうに飛んでいって、そのまま食べてしまったんだ。
妖怪は満足したのか、そのままどっかに行っちまった。

それからはお察しの通り、星に全然興味が無くなってしまって、それっきりさ。
え、嘘だろって。
本当だよ。
というわけで、星座に興味なんてないから、俺はこのまま帰らせてもらう。
だから興味無いんだってば。
名誉?
そういうのにも興味はない。
だから、やめろ。
何回も言ってるだろ。
やめろ。
俺を星座にしようとするのをやめろ。
俺は星座になんてなりたくない。

10/4/2023, 12:46:35 PM

定年後の趣味である詰み将棋をしていると、部屋に妻が入ってきた。
「踊りませんか?」
「分かった」
妻の突然のお願いに、自分は即答する。
妻は踊るのが好きで、よくこうして誘ってくる。
「今日は月が出て明るいから庭でやろうか」
そう言うと妻が頷く。

庭に出ると、いつものように体を寄せる。
頬と頬が近くなり、相手の呼吸の音が聞こえるほど密着する。
いわゆるチークダンスである。
特に合図もなく、体を揺らす。
音楽はなく、強いて言えば虫の声に合わせて踊る。
踊る間は会話はしないのが暗黙のルール。

しばらくして、自然と離れる。
ダンスは終わりである。
家に戻るため、玄関の扉を開ける。
玄関に戻ると、自分から会話を始めるののも暗黙のルールだ。
「何かいいことあったか?」
すると妻は驚いた顔をした。
「よく分かりましたね。ええ、育てていた花が咲きました」
「お前のことなら何でもわかるさ。見に行ってもいいか」
「ええ、いいですよ」
靴を脱ぎ、そのまま妻の部屋に向かう。
「しかし、お前は本当に踊るのが好きだな」
何気なく言うと妻は驚いた顔をした。
「あらやだ、私のこと何にも知らないのね」
今度は自分が驚く番だった。
「好きじゃないのか」
思わずそう言うと、妻はイタズラが成功したような顔をして言った。
「踊るのが好きじゃないの。あなたと踊るのが好きなのよ」

10/4/2023, 3:28:40 AM

いつかきっと運命の人と巡り会える。
昔はそんなことを思っていた。
だって運命の赤い糸で結ばれているんだから。
どんなに辛いことがあっても、それを支えに頑張ることができた

けれど巡り会えることはなかった。
運命の人はいないないんだと思った。
私は一生死ぬまで一人なんだんだと。

でも違った。
今はもう運命の人が隣りにいる。
きっかけはこのアプリ。
自分の事を入力するとAIが判断して、アプリがあなたにおすすめの人を紹介してくる。

――――――――――――――――――

「うんめいのひとが、きっとみつかる、っと。ふう」
婚活アプリの紹介文の下書きを終えて、ふうと、息をつく。
とりあえずの文章なので、書き直したいところはあるが、後で直すことにしよう。
何事も急いではいけない。

背伸びをするとアプリの企画書が目に入る。
運命の人と出会える、ね。
謳い文句が本物ならば、誰にとってもとって魅力的な言葉だ。
もちろん例外はいる。
それはすでに運命の人に出会った人々である。
私?私はこの仕事が終わったら、出会う予定だ。

私の運命の相手、それは諭吉さんである。
浮気なんてしない。この世で信じられるのは彼だけ。
そういえば、近いうちに栄吉さんになるが、これは浮気になるのだろうか。
いや、両方囲えば問題ないな。

さて、そろそろじゅうぶん休んだから、仕事を続けよう。
未来の運命のあいてのために

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