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10/5/2023, 12:23:02 PM

俺が星座に興味がないのには理由がある。
俺も小さい頃は、星が大好きでよく望遠鏡を覗いたもんさ。
将来は星を研究する博士になるのが夢だった。

あれは七歳の頃だったか、妖怪に出会った。
出会ってしまったんだ。
その妖怪は言った。
「お前の夢、美味そうだな。食ってやる。寄越せ」
そう言ってあいつが手をかざすと、俺の胸から小さな光の玉が出たんだ。
その光の玉は、ゆっくり妖怪のほうに飛んでいって、そのまま食べてしまったんだ。
妖怪は満足したのか、そのままどっかに行っちまった。

それからはお察しの通り、星に全然興味が無くなってしまって、それっきりさ。
え、嘘だろって。
本当だよ。
というわけで、星座に興味なんてないから、俺はこのまま帰らせてもらう。
だから興味無いんだってば。
名誉?
そういうのにも興味はない。
だから、やめろ。
何回も言ってるだろ。
やめろ。
俺を星座にしようとするのをやめろ。
俺は星座になんてなりたくない。

10/4/2023, 12:46:35 PM

定年後の趣味である詰み将棋をしていると、部屋に妻が入ってきた。
「踊りませんか?」
「分かった」
妻の突然のお願いに、自分は即答する。
妻は踊るのが好きで、よくこうして誘ってくる。
「今日は月が出て明るいから庭でやろうか」
そう言うと妻が頷く。

庭に出ると、いつものように体を寄せる。
頬と頬が近くなり、相手の呼吸の音が聞こえるほど密着する。
いわゆるチークダンスである。
特に合図もなく、体を揺らす。
音楽はなく、強いて言えば虫の声に合わせて踊る。
踊る間は会話はしないのが暗黙のルール。

しばらくして、自然と離れる。
ダンスは終わりである。
家に戻るため、玄関の扉を開ける。
玄関に戻ると、自分から会話を始めるののも暗黙のルールだ。
「何かいいことあったか?」
すると妻は驚いた顔をした。
「よく分かりましたね。ええ、育てていた花が咲きました」
「お前のことなら何でもわかるさ。見に行ってもいいか」
「ええ、いいですよ」
靴を脱ぎ、そのまま妻の部屋に向かう。
「しかし、お前は本当に踊るのが好きだな」
何気なく言うと妻は驚いた顔をした。
「あらやだ、私のこと何にも知らないのね」
今度は自分が驚く番だった。
「好きじゃないのか」
思わずそう言うと、妻はイタズラが成功したような顔をして言った。
「踊るのが好きじゃないの。あなたと踊るのが好きなのよ」

10/4/2023, 3:28:40 AM

いつかきっと運命の人と巡り会える。
昔はそんなことを思っていた。
だって運命の赤い糸で結ばれているんだから。
どんなに辛いことがあっても、それを支えに頑張ることができた

けれど巡り会えることはなかった。
運命の人はいないないんだと思った。
私は一生死ぬまで一人なんだんだと。

でも違った。
今はもう運命の人が隣りにいる。
きっかけはこのアプリ。
自分の事を入力するとAIが判断して、アプリがあなたにおすすめの人を紹介してくる。

――――――――――――――――――

「うんめいのひとが、きっとみつかる、っと。ふう」
婚活アプリの紹介文の下書きを終えて、ふうと、息をつく。
とりあえずの文章なので、書き直したいところはあるが、後で直すことにしよう。
何事も急いではいけない。

背伸びをするとアプリの企画書が目に入る。
運命の人と出会える、ね。
謳い文句が本物ならば、誰にとってもとって魅力的な言葉だ。
もちろん例外はいる。
それはすでに運命の人に出会った人々である。
私?私はこの仕事が終わったら、出会う予定だ。

私の運命の相手、それは諭吉さんである。
浮気なんてしない。この世で信じられるのは彼だけ。
そういえば、近いうちに栄吉さんになるが、これは浮気になるのだろうか。
いや、両方囲えば問題ないな。

さて、そろそろじゅうぶん休んだから、仕事を続けよう。
未来の運命のあいてのために

10/2/2023, 9:23:10 PM

「奇跡をもう一度」
周囲の人間が囃し立てる。
現チャンピオンの君とチャレンジャーの僕。
去年、君はチャンピオンである僕を打ち負かした。
そして今年も周りは君が勝つことを望んでいる。

失礼な奴らだと思う。
君が勝ったのは奇跡だと言うんだから。
あの時、君は全力を尽くし、僕も全力を尽くした。

あのときは楽しかった。
一瞬ごとに君は成長し、それを僕が越え、また成長する。
自分の全力を受け止めてくれる相手がいるというのは、幸せなことなんだと思った。
そして君は勝った。

そこに奇跡なんてない。
だってそうだろう。
研鑽を重ねた僕らに奇跡なんて、いい加減なものが入り込む余地なんてない。

君の顔を見ると分かる。
前会ったときからからずっと技を研ぎ澄ましてきたことが。
君の努力がまぐれと言われたことが、悔しかったんだろう。

でも僕も同じだ。
負けたのが悔しくて、ガラでもないのに特訓までしてしまった。

そろそろ試合の時間だ。
さあ、始めよう。
次勝つのは僕だ。

始めよう。
奇跡のようなあの時間をもう一度

10/1/2023, 12:53:11 PM

黄昏時は幽霊や妖怪に会いやすい時間だという。
それを聞いてからというもの、夕暮れ時はずっと君を探している。
僕たちを置いてむこうに行ってしまった君。
もしかしたら会えるかもしれないという希望を胸に、ずっと探している。
でも君の影すらも見当たらない。
そういえば、君は隠れるのが得意だったね。
僕がどれだけ探しても、見つからない。
そうやって、こちらが諦めた頃に僕を呼ぶんだ。
にゃあ
声のした方を向く。
そこには猫がいた。
今回のかくれんぼも君の勝ちだね。
そう言うと、君は夕日の中へ去っていく。
二本の尻尾をご機嫌に揺らしながら。

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