雨と君
雨の日は家の中にいることにしている
庭から一番遠い部屋で音楽を聴きながら
読書やら掃除やらに没頭する
だってそうしなければ聞こえてしまう
雨の中で泣いている君の声が
ひとりでこっそり泣くことすらできない人
涙を雨と誤魔化せでもしないと泣けないなんて
ホントに意地っ張りでプライドが高いのだから
別に隠さなくてもいいのに
今更泣いたって喚いたって離れていかないのに
せめて隣で泣いてくれたら
手くらい握りしめてやれるのに
嗚呼いつまで雨の中、君をひとりにしてなきゃいけないんだ
【押し殺した声】
言い出せなかった「」
もう少しわかりやすく言ってくれ
そしたらそしたらさぁ
俺だってもう少し言葉を選んださ
同じ方向を向いて一緒に歩いていけると
信じていたのに
いや、まあ
あの頃の俺じゃ支えにもなれなかったけども
貴方なら一人でも大丈夫に見えてたし
今ならわかるさ
あれはあの頃の貴方の精一杯のSOSだって
でもやっぱりわかりにくいんだよ貴方
そうやって心を隠すから自分でも見失うんだ
誰も彼もが貴方に期待と希望を押し付けて
貴方なら大丈夫と突き放して
貴方を一人にしてしまった
放り出せばよかったんだ
理想も夢も期待も
プライドが高すぎるんだよ貴方
そうやって取り繕うばっかりで
自分の首を絞めて声が出せなくなって
言えばよかったんだよ
というか言えよ
今なら俺に届くから
助けても寂しいも傍にいても
愛してほしいも抱きしめてほしいも
ちゃんと聞くから
ほら
【わたしのねがい】
ページをめくる
いろんなことが一段落した
そうして久方ぶりに帰って来た我が家に足を踏み入れ顔をしかめる
無造作に置かれた薬
あちこちに落ちている鉱石
部屋の片隅に積まれている保存食
そして散乱した本
「掃除するか」
度を越した散らかりっぷりに思わず声が漏れた
そうして格闘すること半日とちょっと
どうにかこうにか発掘できたソファに座りひと息つく
掃除は苦手だ人を生け捕りにするほうがよほど簡単だ
でもやってよかったこともある
床に落ちていた懐かしい5冊の手帳
一番表紙がボロボロの古い手帳のページをめくる
最初のページには今借りている名前の綴り
とりあえずこれは書けるようになればなんとかなると言われて始まった旅路
最初は日記とも呼べないメモがページのあちこちに走り書きされている
文字を書く練習がてらに記録をつけるといいと酒場の店主にいわれたが何分手帳の使い方も分かっておらず本当に思いつくままに文字が踊っている
しかも文字の形も綴りも滅茶苦茶だ
でもなんて書いてあるかはわかる
自分が何を残したかったのか覚えている
ページを進めるにつれ飛び回っていた文字が整列し文章になってゆく
沢山の生き物に出会った
見たことないものもたくさんあった
知らない食べ物も色も香りもたくさん
嬉しかったことも楽しかったことも
悲しかったことも苦しかったことも
文字の練習だったはずのそれはすっかり習慣となり今でも手帳には旅路の記録を残している
この間の大事件についてもつらつらと書いた
こうして見比べると字はあまり上手くなっていない
こればかりは武器の扱いと違って
すんなりとはいかないのだ
まあいい
これからも手帳は増えていく
そのうち字も綺麗に書けるようになるはずだ
たぶん
【紀行録】
夏の忘れものを探しに
斜めに貼られたポスター
広場に落ちているボール
青く輝くガラス玉
街外れの洋館
夕陽に照らされた時計塔
友達と食べたアイス
知らない街に散りばめられた思い出
ちゃんと抱えて届けに行くよ
【夏休みの終わり】
ふたり
知り合いはたくさんいる
世界中どころか時間も空間も超えた先にもいる
仲間もたくさんいる
背中どころか命を預けられるほどの仲間が
でも友達はふたりだけ
吹雪の先で暖かな居場所をくれた人
護ってもらったのに護れなかった
宇宙の果てで共に力の限り遊び回った人
唯一、護らなくてもいいと思った生き物
知り合いも仲間もこの先増えていくだろう
でもこの先もずっと友達はふたり
心はもう満たされてしまった
他は必要ないのです
【とも】