ページをめくる
いろんなことが一段落した
そうして久方ぶりに帰って来た我が家に足を踏み入れ顔をしかめる
無造作に置かれた薬
あちこちに落ちている鉱石
部屋の片隅に積まれている保存食
そして散乱した本
「掃除するか」
度を越した散らかりっぷりに思わず声が漏れた
そうして格闘すること半日とちょっと
どうにかこうにか発掘できたソファに座りひと息つく
掃除は苦手だ人を生け捕りにするほうがよほど簡単だ
でもやってよかったこともある
床に落ちていた懐かしい5冊の手帳
一番表紙がボロボロの古い手帳のページをめくる
最初のページには今借りている名前の綴り
とりあえずこれは書けるようになればなんとかなると言われて始まった旅路
最初は日記とも呼べないメモがページのあちこちに走り書きされている
文字を書く練習がてらに記録をつけるといいと酒場の店主にいわれたが何分手帳の使い方も分かっておらず本当に思いつくままに文字が踊っている
しかも文字の形も綴りも滅茶苦茶だ
でもなんて書いてあるかはわかる
自分が何を残したかったのか覚えている
ページを進めるにつれ飛び回っていた文字が整列し文章になってゆく
沢山の生き物に出会った
見たことないものもたくさんあった
知らない食べ物も色も香りもたくさん
嬉しかったことも楽しかったことも
悲しかったことも苦しかったことも
文字の練習だったはずのそれはすっかり習慣となり今でも手帳には旅路の記録を残している
この間の大事件についてもつらつらと書いた
こうして見比べると字はあまり上手くなっていない
こればかりは武器の扱いと違って
すんなりとはいかないのだ
まあいい
これからも手帳は増えていく
そのうち字も綺麗に書けるようになるはずだ
たぶん
【紀行録】
9/2/2025, 11:58:44 AM