夏の忘れものを探しに
斜めに貼られたポスター
広場に落ちているボール
青く輝くガラス玉
街外れの洋館
夕陽に照らされた時計塔
友達と食べたアイス
知らない街に散りばめられた思い出
ちゃんと抱えて届けに行くよ
【夏休みの終わり】
ふたり
知り合いはたくさんいる
世界中どころか時間も空間も超えた先にもいる
仲間もたくさんいる
背中どころか命を預けられるほどの仲間が
でも友達はふたりだけ
吹雪の先で暖かな居場所をくれた人
護ってもらったのに護れなかった
宇宙の果てで共に力の限り遊び回った人
唯一、護らなくてもいいと思った生き物
知り合いも仲間もこの先増えていくだろう
でもこの先もずっと友達はふたり
心はもう満たされてしまった
他は必要ないのです
【とも】
ここにある
貴方ってば本当に
やることなすこと滅茶苦茶で
派手でとんでもないことばかり
おまけに自分の気持ちすらわからないまま
衝動的に行動するもんだから
やった後で後悔したり凹んだり
好きなものも嫌いなものも
やりたいこともやりたくないことも
自分のことなのに何もわかってないの
どうかと思うんだよ
他人の願いばかり抱え込んで
他人の求めることばかり叶えて
手に入らないものばかり追いかけて
そんなことしてるから自分の心すら見失うんだ
貴方の心は俺のところにあるから
諦めてずっと俺の傍にいたらいいよ
いい加減観念して認めたらいいのに
俺のことが好きだって
【年貢の納め時】
素足のままで
走る
走る
走る
後ろを振り返る余裕もない
ただ夜の道を駆け抜ける
服はボロボロで動きにくい
それでも立ち止まるわけにはいかない
一夜限りの魔法使いの慈悲
見たこともない物で溢れ
美しく着飾った人々がひしめく
泡沫の夢
夢は覚めるもの
だけどもこの姿をあの人には見られたくない
だからひたすら走り続ける
靴は片方脱げてしまった
素足で石や枝を踏んだ
切れてしまったのか足の裏が痛い
それでも止まるわけにはいかない
どうか
どうか
私を見つけないで
貴方には綺麗な私だけを覚えていて欲しいの
【灰かぶり姫の祈り】
君と飛び立つ
結局一度も共に宇宙を飛んだことはなかったな
今更ながら星が広がる空を見上げて思う
彼とは宇宙を飛び回るときはいつだって敵だった
背中を預けて戦えたらそれはどんなに満たされただろうなんて今更なことを考える
そう今更だ
遠い遠い過去のような違う世界のような
そんなおとぎ話
それでも少しだけ夢をみるもしも彼が自分の手を取ってくれたならそうしたら
意識が“前”に引っ張られそうになったそのとき
ヴーヴー
胸のポケットに入れていた携帯が震えた
仕事で何かあっただろうか
取り出して名前をみる
彼だ
なんだか笑ってしまう
滅多に連絡なんてしてくれないくせに自分が“前”に引きずられそうになるとこうやって声をくれるのだ
うんそうだな
共に宇宙は飛べなかったが今はこの地で共に歩んで笑いあえるのだ
それは十分すぎるほど幸せだと今は知っている
ふわふわした心地で電話に出る
「もしもし」
「…なんでそんな嬉しそうなんだ貴方」
君と話せるからだなんて言ったら電話を切られてしまうだろうかなんて思いながら会話を返す
君と共に飛び立つことはできなくても共に星を眺めることはできるその幸福を噛み締めて
【今という幸福】