真空

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君と飛び立つ

結局一度も共に宇宙を飛んだことはなかったな
今更ながら星が広がる空を見上げて思う
彼とは宇宙を飛び回るときはいつだって敵だった
背中を預けて戦えたらそれはどんなに満たされただろうなんて今更なことを考える
そう今更だ
遠い遠い過去のような違う世界のような
そんなおとぎ話
それでも少しだけ夢をみるもしも彼が自分の手を取ってくれたならそうしたら
意識が“前”に引っ張られそうになったそのとき
ヴーヴー
胸のポケットに入れていた携帯が震えた
仕事で何かあっただろうか
取り出して名前をみる
彼だ
なんだか笑ってしまう
滅多に連絡なんてしてくれないくせに自分が“前”に引きずられそうになるとこうやって声をくれるのだ
うんそうだな
共に宇宙は飛べなかったが今はこの地で共に歩んで笑いあえるのだ
それは十分すぎるほど幸せだと今は知っている
ふわふわした心地で電話に出る
「もしもし」
「…なんでそんな嬉しそうなんだ貴方」
君と話せるからだなんて言ったら電話を切られてしまうだろうかなんて思いながら会話を返す
君と共に飛び立つことはできなくても共に星を眺めることはできるその幸福を噛み締めて

【今という幸福】





8/21/2025, 2:46:43 PM