ミッドナイト
「こんばんは」
「…こんばんは」
午前0時24分
雪もちらつき髪も凍るような寒さの中で
今日もお隣さんが煙草を吸っていた
「寒くないんですか?」
「寒いですよ」
まあ、当たり前だろう
モコモコのセーターを着こんでコートを羽織っていても貫通するくらいには外は冷えている
「手足が凍りそう」
「中に入ったらいかがでしょう」
「でてきたばかりなのに」
すこしばかり拗ねた口調で返す
お隣さんはあきれたように煙を吐いた
「そもそもなんででてきたんですか、
寒いとわかりきっているのに」
「寝れないからしょうがないでしょう」
「またですか」
「そちらこそ、こんな寒いのによく外で煙草なんて吸えますね」
吐く息が白い
手足も冷えてきた
それでも部屋にはまだ戻る気が起きない
「好きなので」
プカプカと煙を浮かべながら
お隣さんは空を見上げた
私もつられて空を見た
空は雲に覆われて星どころか月も見えない
雪がチラチラと舞い落ちる
駐車場が真っ白だ
「私も好きです」
空も雪も寒さもこの時間も
「物好きなことで」
「そちらこそ」
【夜の雑談】
安心と不安
あの人たちがいると安心する
どんなにピンチでもなんとかなるんじゃないかって
でもだからずっと不安を抱えている
いつか皆いなくなるから
わかっている
あの人たちは記憶の再現で本人ですらない
だから俺にスキルを伝えたら役目は終わり
だからいつかいなくなってしまうことはわかっているの
一つ一つ声が聞こえなくなるたび
不安は大きくなって泣きたくなる
でも泣いたらあの人たちは怒るしからかってくる
その声を思い出して少しだけ安心する
心がいったりきたり
いつか声が全部消えてしまったとき
俺は不安で泣いているのか
それとも安心して堂々と送り出せているのか
わからないけれど
今はまだあの人たちの声が聞こえるから
安心してみんなの前にたっていよう
怖さを隠して涙も隠して
あの人たちが受け止めてくれるから
強い俺を演じよう
いつかそれが本当になるように
【子供であれなかった皇帝】