【仲間になれなくて】
「かわいいー!」
バズっているぬいぐるみの画像を見ながら、高い声が飛ぶ。
内臓が飛び出たり、ファスナーのような雑な縫い目があったり、血のような染みがあったり。
かわいいのに「グロい」部分のあるぬいぐるみのシリーズが流行っていた。
私はそっと目をそらす。みんなの手前言えないが、正直、これは苦手だ。
「ねえこれ、みんなでオソロでつけようよー!」
「いいね、修学旅行とか文化祭とかこれつけて回ろうよ!」
(えっ、いやだ──)
「えっ、嫌だ」
由紀奈はきっぱりと言った。私の声が出たのかと、心臓が高鳴った。
「だってグロいじゃん」
ええー、と声が出て、空気がしらける。
「そろそろ移動だし、行かね?」
私はうなずいて、由紀奈のあとに続いた。
「だって、グロいと思ったんだもん」
由紀奈はつぶやいた。そうか。由紀奈も、後悔したりするんだ。
「私も、あれはグロいなって思ったよ」
そう言うと、由紀奈は笑った。
「だよねぇ?」
仲間にはなれなくても、友達ができた。
【雨と君】
めくるめく旅路の途中で、僕は恋をした。
窓際で本を読む君。
地面に着くまでの短い間の恋だった。
【誰もいない教室】
誰もいない放課後の理科教室は、秘密に満ちている気がする。
薬品棚や器具棚がしっかり施錠されているせいだろうか、それとも、特別教室のいつもと違うワクワクした空気のせいだろうか。
少し埃っぽい、午後の傾いた光線の中をゆっくりと歩く。
これが僕の、至福の時間。
誰にも見られないように、ひっそりと。
「見つかると、また七不思議だって大騒ぎになるからね」
そう独りごちると、僕はガラスに映る、半分しか皮のない自分の顔を見て微笑んだ。
【言い出せなかった「」】
「お待たせ」
君が帰ってきた。
「ううん」
まだ目を合わせるのも照れくさくて、はにかみながら答えた。
初めてのデート、無理もない。
「ごめん、トイレ混んでてさ」
伏し目がちになった私の視線は、そこで止まった。
「映画、あと5分くらいあるね」
「えっ、あっ、うん、そうだね」
「先にポップコーン買うのもいいかな」
「あっ、うん」
私は何を聞かれてもしどろもどろになってしまう。
「あの……」
「どうしたの?」
「……なんでもない」
「そう?じゃあ、行こうか」
2人分のポップコーンとジュースを抱えた彼が、そう促してくれた。私は頷いて、一歩後ろを歩いた。
隣を歩くのは、少し恥ずかしくて。
彼を待ちながら、そんな懐かしい日のことを思い出していた。
彼がトイレから戻ってくる。あの日のように。
あの日、言えなかった言葉。
──開いてるよ。
【secret love】
「そうだよね、辛いよね…」
私がそう言うと、彼女は耐えきれず声を上げて泣き出した。好きな人にパートナーがいたことを知ってしまったのだ。
彼女はそれでも、人知れず思い続ける道を進むという。気持ちが消えるまで。
気持ちが消える日。
そんな日が来るのだろうか?
「思い続けるって、しんどいよ」
私はそう言いながら、彼女の手を握ろうとして、思いとどまった。
報われない相手を思い続けるって辛いんだよ。
私がそれを、一番よく知ってるから。