細かい作業ができなくなるのが嫌なんだ。
顔の痒いとこも掻けないし。
マスクずらすのも一苦労だし。
バッグからリップクリーム取り出したり。
特急券ちゃんと手の中にあるのか分からなくなるし。
スマホもうまく使えない。
そりゃ、スマホ対応の手袋だってあるけど。
けっこう使いにくいよね。
それなのに、手袋ばかり贈ってくるんだ。
手がかじかんで辛かった自分の想い出が色濃いんだろ。
私は足先つらい冷え性なんだって言ってるじゃん。
あったかい靴下もらったほうが嬉しいんだよ。
でもくれるのは手袋なんだよね。
そんな毎シーズンいらないし。
ヘタしたらひと冬に3セットくれたりするし。
片方落としても大丈夫なように?
いやいや、いくら何でもそんなに落とさない。
多分自分がもらって嬉しいモノなんだよね。
分かってるんだよ。
あなたすぐに手袋なくすし。
贈る相手が嬉しがるかどうかより
自分のことばかり考えてるようで、腹立つんだけど。
分かるんだよ。
それ贈ったら喜ぶはずって思いこんでるだろ。
だって自分がもらったら嬉しいから。
分かってるから。
後で開けてよ。
そこプレゼント置いとくから。
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【27】手ぶくろ
小さい頃って、世界のいろんなものが確固たる確かなものに思えてた。
親は絶対だし、学校の校則は絶対だし、日本のシステムは絶対だし、ボールを投げれば地面に落ちるし、太陽は永遠だし、ダイヤモンドは永遠の輝きだ。
それが、大人になるにつれて、なんなら大人になってからは加速度的に、変わらないものなんてほんとにないんだなって分かってくる。
親は間違ったことを言う。学校の校則なんて時代の常識に沿ってどんどん変わる。日本のシステムもおかしなところはたくさんあって、改善も改悪もされていく。宇宙に出ればボールは落ちない。太陽は50億年後に燃え尽きる。ダイヤモンドは灰になる。
子供の頃に見てた部分って、物心ついてから数年の短い期間でしかない。大人になって見えるものと、時間軸が違う。
短い時間軸の中でなら「変わらないもの」があるのも別に間違ってない。1日、1ヶ月、1年というスパンで変わらないものも確かにあるから。
でも、どんどん視点を時間空間的にズームアウトしていくと、どんなものも必ず変わっていくのが見えてくる。
地球はいつまでも豊穣だと信じてた若い人類も、長い歴史を俯瞰できるようになってそうじゃないって分かってきた。
最初はゆっくりとした変化しかない。ほとんど目に見えないくらいゆっくりと。静止してるかのように鈍い動きで。
でも、気づいた時にはその変化は止められないくらい大きくなってる。
息子がやってる数学のプリント。二次関数のグラフを眺めていると、ゆるやかだった増加の角度が徐々に徐々に強くなる。
グラフのこの曲線が、リアル世界の現象にそっと触れる。
変化に私たちが気づいた時にはもうパンデミックは止められないところまできていたりするのだ。
ある時間軸の変化に対応するためには、その時間軸を上回る速さでこちらも変化していかないといけない。
樹木が無くなり飢え死にする前にイースター島から脱出する術を見つけないといけない。
地球が灼熱惑星になる前に、人類は宇宙に出て行かなければならない。
今回のお題が「変わらないものはない」のだとしたら、私たち自身も変わっていける筈。
大切なのは、私たちに影響を与えるその変化に間に合う時間軸で変わっていかないといけないということ。
私が間に合うのかも、世界が間に合うのかも、誰も知らない。
でも、「変わらないものはない」。
それを信じてる。
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【26】変わらないものはない
病院で座薬を入れることになった。自らトイレで挿入した後、効果が出るまで先生と雑談をする。
「先生、僕の知り合いで座薬をお尻から入れることを知らないで、飲んでしまった人がいたんですが、それでも効果あるんですかね」
笑い話のつもりで言ったのに、若い先生、真剣な面持ちで考え込む。
「昔、研修医の時に、座薬を使っても使っても効かないというおじいちゃんがいてですね」
「はい」
「そのおじいちゃん、座薬を坐って服用する薬だと勘違いしてて、ずっと飲み続けてたようなんですね。それで効かなかったわけですから、効きは悪いと思います」
「…なるほど」
正しい道って割と皆オリジナリティないもんだけど、間違え方って独創的だよな。
と、思ったクリスマスの出来事。
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【25】クリスマスの過ごし方
少しだけ寄付をしたホームレスの支援団体からクリスマスカードが届いた。
すりガラスの向こうで燃えるように赤いツリーのイラスト。
恋人と過ごす夜
家族の団らん
嬉しいプレゼント
子どもの笑い声
幸せな食卓
寝る場所を求めてさまよい歩く人が感じる
クリスマスの街のあたたかい雰囲気の辛さ。
日常の中にたくさんあるささやかな幸福の反対側は
いつも誰かが必ず哀しい。
世界が浮かれてる時ほど色濃くなる暗がりに
冷たい夜。
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【24】イブの夜
皆様の夢と希望を配達していたサンタクロースおんじは
働き疲れたトナカイを降りて
いつしか布袋をゆらした大黒天になっていく。
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【23】プレゼント