【バレンタイン】
毎年山ができる机の上
君宛のチョコに紛れ込ませた贈り物
次の日元気そうに投稿してきた君
今年は私のチョコ、食べてくれなかったんだ
君は誰にでも優しい。
クラス全員の名前を覚えているし、住む世界が全く違う僕の名前を覚えていてくれる。
人の為に怒って、泣いて、喜べる。
そんな君だからきっと皆に好かれる
そんな君だからきっと皆の中心なんだ
そんな君だから、そんな君の特別になりたいから
僕は君が嫌いだ、僕だけが君を憎もう。
この広い世界でたった僕だけが君に憎悪を与えられる。
あぁ、こんな素敵な事はない!!
【誰もがみんな】
あぁ、まただ。
クラスの窓側、一番うしろの角の席。
特に何をしたわけじゃないのにずーっと睨んでくるアイツの視線。
人見知りなアイツは誰に対してもオドオドして困ったように眉毛をハの字に下げる。
そんなやつがこっちを見る時にだけ鋭く反抗的な目で見つめてくる。
実害は無いけど正直結構困るんだ。
自然と上がる広角を
背筋に走る興奮を
…一体どうやって誤魔化そう
【どこにも書けないこと】
辛くなったら相談してね
思ってることは言わなきゃ分かんないよ
その時、貴方はどう思った?
人は口にしなければ伝わらない。
頭の中を共有できるわけじゃない。
心の内のモヤモヤを、きつく締め付けるこの苦しさを、伝えるすべが分からない。
文字に起こせない
……ただ漠然と、辛い。
【時計の針】
「ねぇねぇ時計の針ってさ、1分しか一緒に居られないでしょ?なんか良くない!?」
「わかるわー…エモい、ってやつ?」
......何を言っているんだ。
たった一分だぞ、話も中途半端なところで終わるだろ。
そもそも俺と違って大きな面積を忙しなく動き回る彼は、いつも息切れして話しかけるどころじゃない。
中の深めようが無いんだ、そんな中エモい空気とやらになるものか!!!
あ、やべ、来た。
あ、お疲れさまでーす…はは、最近寒いっすねぇ…
あ、もう時間ですね、ではまた…
…あぁ、気まずい。
俺はきっと、君のことなんか好きじゃない。
気付くのが遅すぎたんだ、恋に色づく君の横顔がこんなにも綺麗なこと。
「あー!絶対今の子先輩のこと好きだ!」
「そんなの分かんねーよ、用事があっただけだろ?」
「ふふ、女の勘を侮るなよ少年?」
そう言ってはにかむように笑う、薄く色付いた頬。
あぁ、また君の事を好きな俺が揺らぐ。
自分本意で最低な俺が出てきてしまう。
「...なぁ、放課後暇?」
どうか、どうか俺が最低な奴になる前に
今日まで耐え抜いた健気が無駄になる前に
その女の勘とやらで気付いてくれ。
【溢れる気持ち】