お題『記憶』
うっすらと遠い昔。曾祖母と歩いた道。
彼女のことが、大好きだった。
でも、私が大きくなるにつれて、彼女は小さくなった。
とうとう、彼女は私が分からなくなった。
私は、彼女の横たわる病室で、泣きそうになるのをこらえた。
泣けなかった。
知らない人が来て病室で泣かれたら、きっと驚いてしまうから。
本人の方がきっと泣きたい。
先に泣く訳にはいかなくて、「はじめまして。」と笑顔で挨拶した。
喉がヒリヒリして辛かった。
私と彼女の思い出は全て、私の記憶の中にしかほとんど残っていないのだと理解した。
もう、あの日の二人の思い出は共有できない。
私の頭の中で、ゆっくり風化していく。
たまに彼女の好きな花を見ると、ふと思い出す。
彼女の背の低さを。彼女の声を。顔を。
あと何度、私は思い出せるのだろう。
記憶が、本のページが日に焼けるように、セピア色になるのが、怖い。悲しい。
お題『もう二度と』
私に顔を見せないで。関わりたくない。
君からそう言われた時、とても悲しかった。獣のように毛を逆立てさせて、敵意がむき出しで。
「ごめんなさい」と言っても、許してくれなさそうで。それだけ君を傷付けたのだと理解して、申し訳なさで頭が自然と垂れ下がった。
さっき言わなければ、君を悲しい思いにさせなかったのに。
「…嫌なこと言って、ごめんね…」
できるだけ慎重にそう言ったら、きみはきゅ、と口を噤んだ。
「…そうだよ、とても嫌だった……。…ごめん、カッとなった」
僕が悪いのに、君の方が辛そうな顔になってしまった。
そんな顔させて、ごめんね。
お題『曇り』
どうしたの。何か嫌なことあった?悲しいことあった?
なんだか雨が降りそうな顔。
よく寝て欲しい。悲しい思いを君がしないで欲しい。
無理に聞いたりは絶対しないけど、何かあるなら話して欲しいな。
お題『bye bye…』
時には、お別れだって私たちには大切だ。
どれだけ私には大切でも、共にいることが苦痛になってしまう時もある。
もちろん、逆も然り。
だからバイバイだって、大切な挨拶だ。
お題『君と見た景色』
あの頃一番近かった、ブランコから見た空。
とめどなく溢れた鼻水や涙を拭い、ぐしゃぐしゃになって重くなった袖。
しゃがんで見つめた、お気に入りの靴とアリの巣の出入口。
少し風の強いなか、視界にチラつく黒い線と「入学式」の看板。
縦書きで、独特な字がつらつらと書かれた、目が滑る先生の黒板の文字。