お題『記憶』
うっすらと遠い昔。曾祖母と歩いた道。
彼女のことが、大好きだった。
でも、私が大きくなるにつれて、彼女は小さくなった。
とうとう、彼女は私が分からなくなった。
私は、彼女の横たわる病室で、泣きそうになるのをこらえた。
泣けなかった。
知らない人が来て病室で泣かれたら、きっと驚いてしまうから。
本人の方がきっと泣きたい。
先に泣く訳にはいかなくて、「はじめまして。」と笑顔で挨拶した。
喉がヒリヒリして辛かった。
私と彼女の思い出は全て、私の記憶の中にしかほとんど残っていないのだと理解した。
もう、あの日の二人の思い出は共有できない。
私の頭の中で、ゆっくり風化していく。
たまに彼女の好きな花を見ると、ふと思い出す。
彼女の背の低さを。彼女の声を。顔を。
あと何度、私は思い出せるのだろう。
記憶が、本のページが日に焼けるように、セピア色になるのが、怖い。悲しい。
3/25/2025, 10:25:52 AM