【モンシロチョウ】
モンシロチョウはなんで白いの?
人間のように、汚くないからだよ
じゃあ、大人になったらぼく、モンシロチョウになる!
…
モンシロチョウ、
クモの巣に引っ掛かって、食べられちゃった。
【ないものねだり】
人間が大嫌い。
だって、充分幸せなはずの人が
今以上の事を求めるから。
自分より辛い人が居ることを、分かっていないから。
ご飯を食べられるだけで、好きなことがあるだけで、充分幸せなはずなのに。
僕はそんな、ないものねだりなんかしない。
薄暗く、何も無い部屋で、扉の前に置かれていたご飯を食べる。
それが、人間嫌いな僕の幸せ。
ないものねだりしたところで、どうにもならない事を僕は知っている。
意地でも幸せだと思わなければ。
きっと、僕の人生に今以上の幸せは無いから。
【好きじゃないのに】
「ハムちゃん、大事にしてあげてくださいね!」
狭い空間に閉じ込められた私。
早く出して、ここから出して、
私の言うことを無視して、人間が言う。
「この子、すごく元気だなー」
目が覚めると、大きな目が私を見つめていた。
ただただ、怖かった。
「あ!起きた!」
こいつは、私の事が嫌いらしい。
よく、かりかりした苦いものを私の顔に押し付けてくる。
だから、私もこいつの事が嫌いだ。
また、最悪な1日になるのだろうか…
今日も、あいつは私にかりかりを押し付けてきた。
こんな不味い物、食べてやるもんか。
「うーん、あげ方がダメなのかな…」
「ゆきー!今日も可愛いね~」
名前を呼ばれて、私は急ぎ足であなたに近づく。
「おやつでちゅよ~」
手の上に乗せられた物を、さっと頬張る。
その隙に、あなたの暖かい手が、私の背中をなでた。
あなたは、私の事が嫌いなはずなのに。
何故こんなことをするのだろう。
私も、人間の事は好きじゃないのに、
あなたに「ゆき」と名前を呼ばれると、ついつい嬉しくなってしまうのは何故なんだろう、
【ところにより雨】
雨が降っている。
ところにより雨なのだろう、そう思った。
家族が死んだ。
大学生の頃に一目惚れした妻と、まだ小学生の可愛い娘。
家族の為に、頑張って買った我が家で、一緒に暮らしていた。
色々大変なことも有ったけど、家族と居るだけで、幸せだった。
妻と、娘が、どう死んだか、頭がその事を考えるな、と拒絶している。
家の三階にあるバルコニーで、酒を飲みながら、空を眺める。
好きだった酒さえも、もう味がしなかった。
雨が少しずつ、服を濡らす。
この雨はきっと、ここにしか降っていない。
今、今だけは、俺が一番可愛そうなのだ。
そう、この雨は、家族からの気持ちなのだ。
俺はただ、バルコニーから雨を眺めているだけだったが、
もう、俺は決めた。
「今行くよ」
雨と一緒に落ちていくのは、思っていたより気持ちが良かった。
【特別な存在】
お湯につかる僕。
窓から光が差し込んでくる、もう朝になったのだろうか。
ドタドタと、忙しなく歩き回る音が聞こえてくる。
僕はとうとう、見つかってしまった。
お母さんは、僕のことを見た。
なんでそんな顔をしているのか、わからなかった。
お母さんは僕を見て泣いていた。
僕には妹の「かな」が居る、まだ3歳。
かなが産まれてすぐにお父さんが居なくなってしまったから、お母さんは、1人では何も出来ないかなに付きっきり。
僕にかまっている暇なんてなさそうなくらい、忙しそうだった。
家での僕は、道路のすみに落ちている枯れ葉のような存在。
でも、僕はお兄ちゃんで、かなは妹だから、しょうがなかったんだと思う。
僕は、かなもお母さんのことも大好きだったから、これからのことを考えて、お風呂くらいは1人で入れるようになりたかった。
お母さんは、僕のことを全く気にしていないようで、いつものことだけど、やっぱりちょっと寂しかった。
1人でお風呂に入った。
一通り体を洗ってから、湯船につかってみる。
お母さんのことを考えてみた。
でもやっぱり、お母さんはお母さんだった。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか僕は寝てしまっていた。
お母さんは泣き続けた、どろどろになった僕を見て、泣いて。
落ち着いてきたと思ったら、また僕を見て、泣いての繰り返し。
何か言っていた気がしたけど、死んでしまった僕には、どうしても分からなかった。
僕がいなくなっても、お母さんは気にしないと思ってたけど。でも、
きっとお母さんは、僕のために泣いてくれたのだ。
僕を想って、僕のためだけに、
もう動く事の無い心臓が、ほんの少しだけ、温かくなった。
僕は、お母さんにとって "特別な存在" になれた気がした。