【特別な存在】
お湯につかる僕。
窓から光が差し込んでくる、もう朝になったのだろうか。
ドタドタと、忙しなく歩き回る音が聞こえてくる。
僕はとうとう、見つかってしまった。
お母さんは、僕のことを見た。
なんでそんな顔をしているのか、わからなかった。
お母さんは僕を見て泣いていた。
僕には妹の「かな」が居る、まだ3歳。
かなが産まれてすぐにお父さんが居なくなってしまったから、お母さんは、1人では何も出来ないかなに付きっきり。
僕にかまっている暇なんてなさそうなくらい、忙しそうだった。
家での僕は、道路のすみに落ちている枯れ葉のような存在。
でも、僕はお兄ちゃんで、かなは妹だから、しょうがなかったんだと思う。
僕は、かなもお母さんのことも大好きだったから、これからのことを考えて、お風呂くらいは1人で入れるようになりたかった。
お母さんは、僕のことを全く気にしていないようで、いつものことだけど、やっぱりちょっと寂しかった。
1人でお風呂に入った。
一通り体を洗ってから、湯船につかってみる。
お母さんのことを考えてみた。
でもやっぱり、お母さんはお母さんだった。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか僕は寝てしまっていた。
お母さんは泣き続けた、どろどろになった僕を見て、泣いて。
落ち着いてきたと思ったら、また僕を見て、泣いての繰り返し。
何か言っていた気がしたけど、死んでしまった僕には、どうしても分からなかった。
僕がいなくなっても、お母さんは気にしないと思ってたけど。でも、
きっとお母さんは、僕のために泣いてくれたのだ。
僕を想って、僕のためだけに、
もう動く事の無い心臓が、ほんの少しだけ、温かくなった。
僕は、お母さんにとって "特別な存在" になれた気がした。
3/23/2024, 12:16:39 PM