コトバは都に流るる人波に呑まれている
彼らはコトバを鋭利な刃物の如く使っている
コトバは美しく舞いヒトになると云っている
嘲笑の餌食と化したコトバは嘆き悲しむ
「生きる意味を教えてくれ」と叫ぶコトバ
都に訪れ言魂と戯れる吟遊詩人
コトバに麗しい装飾を纏わせ共に踊り狂う
都に流るる人波は吟遊詩人とコトバの意味を知る
生きる意味の片鱗を知った人波は忘れゆく
ストレングスと歌姫を擁する歌劇場
言魂とコトバは天空を貫き星となる
永遠の星々となった高貴なるものは
生の意味を絶え間なく彷徨う人波を照らしている
「この世は踊り狂うが勝ちさ」
と陳腐な歌を唄う吟遊詩人と歌姫
星々は人波を照らしつつ微笑みを浮かべている
単純極まりなく複雑な世界
リズミカルに変幻する世俗
嘆き苦しむ青年と淑女は救いを求める
憐憫を浮かべる聖女は只々祈っている
皆の幸せが降りかかるように
淡々と…真摯に…瞳を閉じて
『散文的雑踏』
コンクリートの山々は太陽を覆う
アスファルトを忙しなく駆ける人波
喧騒の中から何らかの価値が産まれる
太陽が堕ちると、ネオンが偽りの月明かりを演じる
モノクロの街には幾千万通りの人生が在る
千紫万紅の瞳には幾千万通りの憂いが宿る
天空へと目指す紅き塔は星々を望んでいる
都会という名の森に流れる我らは水流か
雨粒である我らは水溜りになる定めか
その水溜りは清らかに濁り人生を知るだろう
太陽によって蒸発した瑞々しい水滴はきっと
天使に蒼白色の記憶たちを微笑み渡すだろう
満面の笑みを浮かべて
『都市の鎮魂歌』
八十八個の鍵盤を眺め
音盤を回し音律に沈む
曲線と直線が混ざっている数奇な楽器
四足の脚で地を掴んでいる数奇な楽器
白と黒のコントラスト
鍵盤が私の指先を求めている
この理解しようがない人々を憂いた旋律を奏でる
この心臓が動く限り、続く生に激情を込めて唄う
空洞だった心はメロディアスに響く
救いようのない世界
何もかも求める世間
何もかも持っている我ら
満たされた瞬間、悦楽の源を探せど
見つからないな、物足りないな
八十八個の鍵盤を眺め
音盤を感じ音律に沈む
『白と黒の因果律』
明日終わるかもわからない世界
暗く影が伸びた淑女
彼女は汝らの憐れみ
傷んだ心を癒す唄を
頬に涙を伝いつつ詠う
彼女は泣いた理由もわからないまま
汝らの讃美歌を淡々と哀しさを重ね
両手を広げ、空を抱いている
眩しい太陽を隠している雲の
頬を優しく撫でる
純白の雲は雨になり消える
明日終わるかもわからない世界
澱んだ心情を晴らす空の蒼さは
幾人の人々を照らすだろうか
『キリエ』
あゝ朝露が我を濡らしている
素晴らしき祝福が収斂し結晶化した愛は
天へと舞い上がり朝露と成った
何時迄もこの愉楽を存分に味わせ賜う
魂が消え、肉体が消えようとも
海原を創った朝露は欣快(きんかい)を広げる
どれだけ醜怪な世界だろうと
無言で可憐に包むに違いない
おゝ朝露が霧散し消えて逝く……。
『朝露』