〜終わりなき旅〜
果てなき地平線を歩く。
カラカラの砂漠のような地の真ん中でバタリと倒れた。乾く喉も気にならないくらいの快晴に目を細めた。
歩き歩き足が疲労で動かなくなるまで歩いた。
今まで見てきた世界は面白く楽しくとても不吉で興味わくものばかりだった。
喋る樹木や神殿の沈む湖、呼吸のできる水中ダンジョンにドラゴンの住む火山。
摩訶不思議な世界を回る。
これは終わりなき旅。
〜神様へ〜
古くなった境内の中。一枚の大きな木の葉が賽銭箱の上に置き石の代わりの果実と共に置かれていた。その木の葉には拙い子供の字で何かが書き連ねられていた。
はいけい神様
お元気ですか、ぼくはあの時たすけてもらった者です。いまぼくは父ちゃんと母ちゃんといっしょにくらしています。神様はさびしくないですか、もし寂しかったら、また遊びに行ってもいいですか
おへんじ待ってます。
██より
面をつけた青年にも見える人物はふっと微笑み木の葉を手に取り大事そうに懐に直した。はらはらと落ちる花を集めほんのりと色付いた紙に墨をのせる。
流れるような筆記は子供では読むのが難しいだろうかと気づいてからケタケタ笑った。面の奥に隠れる瞳を拭いその紙を飛行機の形に折り曲げ飛ばした。
紙飛行機は風に逆らうように森の方に進んでいく。鳥も虫も全てを追い抜き、小さな岩穴の前に落ちた。中からとたとたと走る足音が聞こえてくる。落ちていた紙飛行機を見つけると全身の毛を逆立てるように身震いして喜んだ。頭に生えている耳がピルピルと動き尾が取れるのではないかという速さで揺れた。手に取った手紙をカサカサと開いた子供はじっくりと時間をかけるように文面に目を通した。
拝啓狐の小僧よ
〜快晴〜
〜心の天気模様〜
その日は雨だった。
ジメジメとした空気と雨特有の匂いが鼻を刺激する。晴れとはほぼ無縁の梅雨の時期。紫陽花の葉の上でカエルやカタツムリは気持ちよさそうに動き回っていた。傘の中からその光景を見つめていると、意識せずとも重たい空気を吐き出した。雨の季節は気分が沈む。ポツポツと傘にあたる雨の音が心地いい。濡れた靴とぐしゃぐしゃの靴下に気分を悪くしながら通学路を歩いた。
雨の季節のせいか教室の中は重たく暗い。
「おーはよさん!!」
バシッと背中を強く叩かれて前によろめいた。
「うわっ!痛いな…!!」
「悪ぃ悪ぃ!」
重たい雰囲気をかき消すような明るい友人は悪気なんてないというような笑顔で謝ってきた。初めはムスッとしていたがその面がなんだか面白くなってきて、ぷッと吹き出した。するとその友人もキョトンと驚いていたかと思えば一緒になってげらげらと笑った。目に涙を貯めて笑いやっと落ち着いたというところで濡れて気持ち悪い靴下のことを思い出した。ガサガサと鞄の中を探して替えの靴下を取りだす。
「うわー、ベチョベチョじゃん靴下」
「スニーカーに穴あいてたのかも」
「単に歩き方が下手なだけだろ、俺なんてぜんぜん濡れなかったぜ!」
「歩き方に上手も下手もないだろ」
呆れながら零すと頭を小突かれる。靴下を履き替え終えたら先程の仕返しのように小突く。それから仕返し仕返し仕返しとずっと小突きあっているとHRの鐘が鳴った。
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雨の気分を引きずりながら過ごしているとあっという間に放課後だ。学級日誌を書く自分の前ではつまらなそうに筆跡を目で追う明るい友人の姿。すっと笑うとなんだよと訝しげな表情で見上げられる。
「なんでも?書き終わったから職員室寄って帰ろ」
「おうよ!」
犬のようにブンブンと尻尾を振ってみえる。幻覚に苦笑いしながら荷物を持って教室を施錠・確認して職員室のある1階に降りた。外はまだ雨模様で野球部やサッカー部、陸上部は階段を使ったトレーニングをしている。掛け声は上から下まで響いていることだろう。
「先生、日誌持ってきました。鍵ここに直しておきます」
ちゃちゃっと自分のするべきことを終わらせ職員室を後にする。靴箱ではもう既に友人が靴を履き替えて傘を片手に待っていた。
「お待たせ、帰るぞ」
「りょーかい!なあ少し遠回りしようぜ!」
「え…まあ、いいけどさ」
「嫌そうだな笑」
「雨だからな」
拗ねるように口を尖らせる。それを面白そうに笑う友人に強めに蹴りを入れた。そいつは「痛っ!!」と大袈裟なリアクションをとると尻を右手で撫でた。
「そんなに怒るなよ…晴れればいいのか?」
「まあな、晴れたら行ってやらなくもない」
「言ったな??」
ニシシと歯を出して悪戯に笑うそいつを疑いの眼差しで見る。
「見てろよー!!」
雨の降る中傘もささずに外に飛出た。
「晴れろー!!!」
そしてものすごい大声で叫んだ。それくらいで晴れるわけないだろと思うもそんなことする友人が酷く面白かったため自分も同じように外に出て叫んだ。
「「晴れろー!!!」」
きっと先生に見つかったら怒られるだろう、でもそれが楽しいのだ。青春はこんななのだ。
すると光の線が雲の隙間から漏れ出てきた。雨が次第に弱まって行くと空に大きな虹がかかる。
先程までの沈み曇った心の内は、虹が架かる快晴の空に変わった。
【命が燃え尽きるまで】
人間の寿命は1本の長いロウソクだ。
そのロウソクは人間によって様々だ。悪を積めば減るし、善を積めば増える。
時には死神がちょんぎったり、無理やりに消したりもする。
最低で生まれてすぐ、最高で100歳ちょっとだ。
死神はそれを見守り測り、そして死する魂を回収する。それが我々の仕事、死神の仕事
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目の前でおばあさんが車に跳ねられて○んだ。
はね飛ばされグチャりと言う音と共に地面に叩きつけられた。辺りにどくどくと赤黒い血液が広がる。
それに合わせて臭う鉄の匂い。
持っていたはずのスマホは力の抜けた手のひらから滑り落ちていく。
カタン、パリン
スマホの画面が割れた。
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家が燃えた。
長く住んでいたアパートは古い。そのために火が点ると一瞬で燃え広がってしまう。
嗚呼、思い出の家……通帳はあるし、スマホはあるけど……
(俺の服……思い出と、きょ、教科書……)
消火されたアパートの中からは老夫婦と若い女性、幼い子供の焼○体が発見された
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最近周りの人が亡くなる。
前を渡っていたおばあさんに住んでいたアパート、大家さんの買っていた犬、そして親。
どんどん近くなっていく。
どんどん、命が燃え尽きていく
【赤い糸】
物心が着く前。いつからかは思い出せないくらい前から存在していた繋がりの糸。それが見える自分にとって周りとの関係を繋ぐことは容易いことで、それと同様に関係を断ち切ることも簡単だった。
家族愛は薄桃色。友情は橙色。仕事上の繋がりなら青色。尊敬等は黄色。憎悪なら黒。そして恋愛なら赤色。
所詮『運命の赤い糸』というものだ。大体の赤い糸は別の人間に繋がっていていつかちぎれてしまう。ちぎれる前、その糸はまるで火に焼かれたように黒く焦げてボロボロになっていく。そしていつの間にかちぎれてしまっている。
初めて糸がちぎれるところを見たのは親の離婚の時。夫婦仲は良く家庭環境も悪くなかった。そんな中、ある日の夜にリビングで言い合いをする母と父をみた。寝惚けて掠れた視界の中赤の糸が黒くボロボロになっていった。それと共に自分にも絡まっていた薄桃色の糸が次第に崩れていった。訳が分からずその場で糸を手繰り寄せ必死になって結んだ。泣きじゃくりながら結んだ糸は先程よりも速く劣化していった。ちぎれた糸を抱えて蹲り泣く子供にぽかんと空いた口が閉じれない両親は喧嘩をやめて必死になって泣き止ませようとしていた。だが糸の劣化は進む一方だった。それが怖くてずっと切れないで切れないでと願っていた。そして両親にはまた違う糸が表れていく。他の人の元へ伸びる赤い糸をちぎろうと手を伸ばすも、その糸は触れることが出来ずするりと手をすり抜けていった。それがまた怖くて泣き始めついには気を失ってしまった。記憶があるのはここまででその後は父が出ていってしまったらしく、家には目元を真っ赤にして台所に立つ母だけが残っていた。言い表せない感情が弾けて母にしがみついてきっと父よりもいい人と出会えると懇願のように繰り返した。母の赤い糸は力なく床に垂れているだけで誰とも繋がっていなかった。結局自分が高校生を卒業した後に母はぱったりと逝ってしまった。女手一人で育て上げてくれた母は最後まで強く最後まで自分の幸せを願ってくれていた。
『あなたは優しい子だからきっといい人と出会えるわ。私が味わえなかった幸せをあなたは掴み取って欲しい。愛しているわ……』
パタリと倒れた手に縋るように病室で泣いたあの日。母の葬式にいた見知った顔の男。今ではなんの情もわかない父の顔。その横でハンカチを片手に泣いている女性とこちらをただ見てくる少年。少年の周りを泳ぐように纏わりつく様々な色の糸。地震が貰えなかった家族の愛情。父親からの愛情が三つ編みのように絡まり固く結ばれていた。この子は愛されているのだろう。良かったねと笑いかけてやりたいがそれも出来ない薄情になってしまった自分が憎かった。別に父親のことを憎んでもいいのだろう。でもそれが出来なかったのは幼少期、父が出ていく前まで与えられた愛情のせいだろう。それが忌々しかった。親子という関係がなくなってもなお絡みつく薄桃色の糸を何度ちぎって何度結んだだろう。母と父の意図は結んでも結んでも解けてしまう。だから自分だけはと懸命に結んだ。でもそれが忌々しくて何度もちぎった。結局は意味がなかった。新しい家庭の子供に絡まる糸は自分たちの時よりも固く強い。
母の写真を胸に抱えそのまま少年の元まで歩く。少年はよく父に似ていた。色素の薄い茶色の髪と肌。優しい目尻。だがその顔には表情はなくまるでこちらを蔑んでいるようで無性に苛立った。数十メートルの距離をゆっくりと歩き近づいていく。ねぇ、自分が貰えなかった父の愛情は温かいものだったかい。幸せなのかい。自分はそんな君が憎いよ。口には出せないドロドロとした嫉妬心。いっその事この少年を手にかけようか。そんなことも思った。肉の落ちた薄い手を少年の首に持っていく。相変わらず表情は動かない。ただその薄い唇から音が漏れた。
「苦しかったね」
嗚呼、彼には何が見えているんだろう。行き場のなくなってしまった手は優しく少年に握りこまれる。暖かく柔らかい手は母を彷彿とさせた。抱え込んでいたものが全て雫となって溢れる。崩れるように。壊れるように。少年の胸に縋るように泣いた。視界の端に浮かんだ赤い糸は自分と少年をその糸が切れないようにと強く固く繋げていた。
【一言】
おひさしぶりぶりざえもんです🌱 ᐕ)ノClockはんやで(((ベシ久々に書きました。いまさっきから書きましたを描きましたって語義ってて困ってる。糸を意図って書くし。いやぁぁぁ( ^ ^ ω )関係を表す糸が見える主人公と家族そして最後に出てきた少年のお話ですね、はい。主人公は20代くらいの程で書いてます。少年と言ってもそこまで歳離れてない気がする。多分。その少年の設定なんですけど、主人公と同じように糸が見えててでも主人公よりもそういう力が強くてその人の心情も読み取れるみたいな。「苦しかったね」は何を見て言ったのかは考察してみてください。下手で申し訳ないです💦
それではまた( ´ ▽ ` )ノ