〜快晴〜
〜心の天気模様〜
その日は雨だった。
ジメジメとした空気と雨特有の匂いが鼻を刺激する。晴れとはほぼ無縁の梅雨の時期。紫陽花の葉の上でカエルやカタツムリは気持ちよさそうに動き回っていた。傘の中からその光景を見つめていると、意識せずとも重たい空気を吐き出した。雨の季節は気分が沈む。ポツポツと傘にあたる雨の音が心地いい。濡れた靴とぐしゃぐしゃの靴下に気分を悪くしながら通学路を歩いた。
雨の季節のせいか教室の中は重たく暗い。
「おーはよさん!!」
バシッと背中を強く叩かれて前によろめいた。
「うわっ!痛いな…!!」
「悪ぃ悪ぃ!」
重たい雰囲気をかき消すような明るい友人は悪気なんてないというような笑顔で謝ってきた。初めはムスッとしていたがその面がなんだか面白くなってきて、ぷッと吹き出した。するとその友人もキョトンと驚いていたかと思えば一緒になってげらげらと笑った。目に涙を貯めて笑いやっと落ち着いたというところで濡れて気持ち悪い靴下のことを思い出した。ガサガサと鞄の中を探して替えの靴下を取りだす。
「うわー、ベチョベチョじゃん靴下」
「スニーカーに穴あいてたのかも」
「単に歩き方が下手なだけだろ、俺なんてぜんぜん濡れなかったぜ!」
「歩き方に上手も下手もないだろ」
呆れながら零すと頭を小突かれる。靴下を履き替え終えたら先程の仕返しのように小突く。それから仕返し仕返し仕返しとずっと小突きあっているとHRの鐘が鳴った。
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雨の気分を引きずりながら過ごしているとあっという間に放課後だ。学級日誌を書く自分の前ではつまらなそうに筆跡を目で追う明るい友人の姿。すっと笑うとなんだよと訝しげな表情で見上げられる。
「なんでも?書き終わったから職員室寄って帰ろ」
「おうよ!」
犬のようにブンブンと尻尾を振ってみえる。幻覚に苦笑いしながら荷物を持って教室を施錠・確認して職員室のある1階に降りた。外はまだ雨模様で野球部やサッカー部、陸上部は階段を使ったトレーニングをしている。掛け声は上から下まで響いていることだろう。
「先生、日誌持ってきました。鍵ここに直しておきます」
ちゃちゃっと自分のするべきことを終わらせ職員室を後にする。靴箱ではもう既に友人が靴を履き替えて傘を片手に待っていた。
「お待たせ、帰るぞ」
「りょーかい!なあ少し遠回りしようぜ!」
「え…まあ、いいけどさ」
「嫌そうだな笑」
「雨だからな」
拗ねるように口を尖らせる。それを面白そうに笑う友人に強めに蹴りを入れた。そいつは「痛っ!!」と大袈裟なリアクションをとると尻を右手で撫でた。
「そんなに怒るなよ…晴れればいいのか?」
「まあな、晴れたら行ってやらなくもない」
「言ったな??」
ニシシと歯を出して悪戯に笑うそいつを疑いの眼差しで見る。
「見てろよー!!」
雨の降る中傘もささずに外に飛出た。
「晴れろー!!!」
そしてものすごい大声で叫んだ。それくらいで晴れるわけないだろと思うもそんなことする友人が酷く面白かったため自分も同じように外に出て叫んだ。
「「晴れろー!!!」」
きっと先生に見つかったら怒られるだろう、でもそれが楽しいのだ。青春はこんななのだ。
すると光の線が雲の隙間から漏れ出てきた。雨が次第に弱まって行くと空に大きな虹がかかる。
先程までの沈み曇った心の内は、虹が架かる快晴の空に変わった。
4/13/2024, 1:08:53 PM