猫宮さと

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6/8/2024, 12:43:23 PM

《岐路》
彼が傷付けられそうなとき。
彼が貶められそうなとき。
心の奥底から声がする。
「怒りに身を焦がせよ。嘆きに溺れよ。」
暗く淀んだ声がする。

声と共に心は引き寄せられる。
深い闇の底へ誘われる。
囁きに身を任せ、彼を苦しめるものを壊し尽くせば、
心は楽になるのかな。

それでもあなたの誠実な優しさを湛えた瞳が、
私を導いてくれる。
私は迷わず進んでいける。
闇と光への分かれ道を、
あなたの灯火が照らしてくれるから。

6/7/2024, 12:15:51 PM

《世界の終わりに君と》
「世界が終わりを迎えるなら何がしたい?」
そう聞かれて真っ先に浮かぶは、大好きな彼の顔。

終わりの瞬間まであなたと一緒に寄り添えたら。
手を取り合っていられたら。
私は最高に幸せな終わりを迎えるだろうな。

けれど、それは叶わぬ願い。

世界の終わりが来そうなら、
きっと彼はそれが何であろうと立ち向かう。
自分の幸せが犠牲になっても世界のために闘った人だから。

だから私が代わりに願うのは。

世界の終わりを遠ざけに旅立つ彼を、
笑って見送れますように。
私が、彼の帰る場所になれていますように。

6/6/2024, 1:08:43 PM

《最悪》
やってしまった。
シロップと間違えてオイルを入れてしまった。
見慣れないボトル故の不注意。
できたケーキは、ドロリとくどい舌触り。
材料ももう無いし、間もなく彼は帰ってくる。
本当に最悪。

と、頭を抱えしゃがみこんだ拍子に頭に過る。
かつて私が知っていたこの世界は、二回も滅びかけている。
大事な彼が仲間と共に守った、この世界。
料理の失敗を最悪と言える、この平和。

いつまでも続きますようにと、現実逃避しながら天に祈った。

6/5/2024, 11:11:34 AM

《誰にも言えない秘密》
闇に魅入られし者。
ずっと大好きだった彼に言い放たれた。
私は果たして闇か光か。それは、この世界の真実を知る私にも分からない。

私の存在が闇ならば、私はあなたに裁かれたい。
迷うことなく、その引き金を引いてほしい。
この身この命、全てあなたに預けます。

あなたの全てを信じているから。
月の御魂に固く誓った。あなたにも明かさぬ、私の決意。

6/4/2024, 12:55:24 PM

《狭い部屋》
目を開くと、見覚えのない天井。
僕が眠っていたのは、ようやっと自分が寝返りを打てるかという広さの部屋。
そこには床どころか、壁にも何も無い。
そう。外に出る扉さえも。

息苦しさを覚えつつ隠された出口を探す。
無い。こちらにも。ここにも。ただ無機質な白が隙間無く空間を覆うだけ。
なぜこうなったかは理解出来ないが、脱出が不可能な事は理解出来た。
壁に触れながら嫌な汗が流れた時、背後から突如中将の声がした。

「貴様は、邪なる存在である。災いとなる前に処分する。」

驚き振り返ると、誰もいないはずの場所には銃を構えた中将と。
銃の先には、闇に魅入られし色を持つあの少女。

何故扉も無い室内に彼らが現れたのか。
それを考える間もなく、少女と目が合う。
大きな赤紫の瞳には、怒りも暴威も憎悪も無く。
涙と共に悲しみのみを湛えていた。

中将の判断は正しい。僕も同じ見立て故に彼女を監視していた。
が、心の奥から湧き出てくるのは、彼女のくるくる変わる表情。
そして、眩しいばかりの笑顔。

知らず、僕は飛び出し中将の銃へと手を伸ばしていた。
しかし、触れたはずの手は銃を通り過ぎ宙を掴む。

空の掌を信じられぬ気持ちで握りしめた刹那、鳴り響く銃声。
糸が切れた操り人形のように崩折れる細く小さな身体。
抱き上げようと手を伸ばすも、やはり通り抜けて空を切る。
見開かれた目から、消えゆく光。

どうして。どうして。
頭が真っ白になる。何も考えられない。
自分の目から涙が流れる理由すら考えられない。
後悔をぶつけるように、拳が血に塗れる程に壁を殴る。
衝撃で掠れた喉から出るはずもない声は、腹の底からの咆哮へと変わる。


「…どうしたんですか?!大丈夫ですか?!」


気付けば僕は自宅のベッドで身を起こしていた。
自分の荒れた呼吸と鼓動に戸惑っていると、ベッドの横には銃弾に倒れたはずの彼女の姿が。

「すみません。入室は無礼かとは思いましたけど、物凄い悲鳴がしたので驚いてしまって…。」

両手を肩の高さで不規則に振りながら、わたわたとしている彼女。
驚き、不安、気掛かり。それらが綯い交ぜになった表情は、変わらず豊かで。
闇から与えられた赤紫の瞳には、明るい輝きが。

「お騒がせしました。悪い夢を見ただけなので、もう大丈夫です。」

あの夢が現実になるべき。
頭ではそう分かっているはずなのに、咄嗟に出たのはこの答え。
正しいのだろうかと心の中で自問する僕に対し、
「よかった」と呟いた彼女の顔は、見覚えのある眩しい笑顔だった。





※蛇足ですが、「狭い部屋」の夢が表すものは、部屋の環境や対する感情によって変わるそうです。

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