その綺麗さに怯えるほど、"上手く"笑う人だと思った。
彼は決して、誰かの前で素顔をさらさなかった。
みんなの笑顔の輪の中で、彼だけはずっと、綺麗な仮面をつけていた。
自分の心に鍵をかけて、ただ穏やかに振る舞うあなた。
まわりの笑顔の為に、自分のことを何もかえりみないあなた。
それなのに、誰が笑おうとも一緒に笑ってはくれないあなた。
誰かの為に自分を"使う"ことは、あなたにとって当たり前のことだったのだろう。
けれど、そんな風に自分を消費していく姿が、私はとてもさみしかった。
だから、ただただ、たわいのない言葉を重ねた。
なにか一欠片でも、仮面の奥に届く事を願って。
そうして仮面に入った亀裂から、あなたの本当の笑顔を見た時、
私はあなたへの恋を自覚する。
『理屈では敵わないもの』──(テーマ:君と出逢ってから、私は……)
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はじめは些細なことだったのだと思う。
嫌いな食べ物を、食べれると言ったり。
兄が希望しなかった方の色を、好きだと言ったり。
ほんの少しだけ自分を誤魔化して、笑う。
そんな些細な嘘。
気づいて欲しいと思わなかったわけではない。
けれど、気づかれたくない気持ちが勝ったのだろう。
だって、この嘘が通ったほうが、みんなが笑顔でいられるから。
そうして僕は、自分を誤魔化すようになっていった。
自分のなかに芽生えた感情の芽を、自ら摘み取り、違う種を蒔く。
摘み取る痛みを感じなかったわけではない。
けれど、次第に痛みは感じなくなっていった。
痛覚が麻痺したのか、痛みに耐えかね、そんな芽など出なくなったのか。
あるいは両方なのかもしれない。
そうして、ほんの少しは次第に積み重なって。
いつしか僕は、僕をわからなくなっていた。
今度は、わからないことへの不安の芽が生えてきた。
その不安の芽を積まなければ、積み重ねた嘘が崩れてしまうことがわかった。
だから、その芽も何度もつみとった。
やがて、自分が蒔いた種以外は芽吹くことはなくなった。
そうして僕は、自分をわかろうとする事をやめた。
ついには不安の種になりうる存在そのもの──家族さえも捨てて。
今までの自分を捨ててようやく、僕は心の安寧を手に入れた。
『雑草は、つまれない場所で育つといい』──(テーマ:大地に寝転び雲が流れる……目を閉じると浮かんできたのはどんなお話?)
君のその優しさは、私には毒だ。
仕事仲間。同僚。戦友。──相棒。
私たちのこの関係に、どんな名前をつけても間違いではない。
時に背中を預けあい、支え合って生きる。
その関係性を言葉にするのなら、それで間違いはない。
だからそれ以上の感情を、優しさを向けないで欲しい。
君のことが、その優しさが嫌いではない。むしろ、好きだ。
君以上に大切な人などいないし、作るつもりもない。
けれど、恋人になりたいわけではないんだ。
どれだけそばに居ようとも、ずっと一緒には生きていけない。
私は君を置いて行く人間なのだと、わかっているから。
そう自分に言い聞かせて、一線を引く。
君の好意をわかっていながら、曖昧に笑う。
だからどうか、相棒のままでいるために。
そんな風に笑わないで。
この恋は、はじまる前に終わらせたはずだから。
『その熱は身を焦がすほど』──(お題:優しくしないで)
君の声。君の笑顔。
君のいる場所だけが、全て色付いて見えた。
君と過ごした時間は鮮やかに、僕の中に積もっていった。
今や僕の瞳は、辛うじて見えているだけ。
機械を通さなくては何も映すことができない、空虚な瞳。
けれど君が教えてくれた色は覚えているから、それで十分だと思える。
どうか君は、こんな僕に気づかないで欲しい。
この先も、色鮮やかな世界で、笑っていて。
翠玉の瞳に映る黒曜のきみ──(お題:カラフル)