私が見ているのは、
いつも同じ景色。
空と、
向かいの家に生えてる木と、
向かいの家の屋根。
いつも変わらない風景。
でも1つだけ、
変わっていく物があるんです。
それはね…洗濯物。
最初は、1人分だった洗濯物。
日によって、干してあったりなかったり。
ある日、洗濯物が2人分になった。
それからは天気のいい日は
ほぼ毎日、ヒラヒラと揺れている。
そのうちに、小さな小さな洗濯物がまた増えた。
その小さな洗濯物も段々と大きくなっていって、
いつしか…洗濯物は、また2人分に減った。
長い時間が過ぎて…ある時から、
毎日洗濯物が干されなくなった。
干してあったりなかったり。
干してあっても1人分。
私の窓から見える景色は
今日も同じ。
音、匂い、空気、想い、、
形の無いものは
たくさんある。
見えないけど、
触れないけど、
確かにそこにあるもの。
意外と
形の無いものの方が
生きていくのに
必要なのかもしれないね。
一面の闇と、静かに動く波の音。
私は一体何をしているのか…
ただ、じっとその場に突っ立っていた。
『なにしてるの?』
少し幼いような、でも凛とした声がした。
驚いて振り返ると、『誰か』が立っていた。
「いや、特に…」
言い終わるよりも早く、
『誰か』はスーッと私の横を通りすぎた。
そのまま波の音の中に消えていく。
「えっ!ちょっ……!!」
思わず、『誰か』に手を伸ばした。
捕まえた!
………
「え?」
闇から顔を出した月に照らされた『誰か』は、
「わ‥たし?」
『ワタシ』が静かに微笑んだ。
『アナタの辛いこと、全部持っていくから』
『だから、もう少し生きて』
ゆっくりと闇と波の音の中に消えていく。
最初で最後に『ワタシ』の声が聞こえた。
冷たい風が肌を通りすぎた。
何故だか不安な気持ちになる。
不安みたいな…物足りないような…
そして、思い出す。
「寒くなると人恋しくなるよね」
そう言ってたあの人。
結局、次の冷たい風が吹く頃には
何処かへ消えてしまったけど。
秋は寂しい季節で、
不意に誰かと居たくなる。
伝えたかった。
伝わらなかった。
だから、刻んだ。
何度も何度も、腫れ上がるまで。
そんなことしても、変わらないのに。
こんな私でも、大事にしたいと想ってくれた。
そんな私でも、大事にしたいと想った。
伝え方が、話し方が、下手くそな私だから、
上手く伝えられる方が少ないけど。
それでも、じっと待っててくれる。
あなたが大事だから、そして…大事な宝をくれたから。
私も自分を大事にしたい。
でも…ごめんね。
それが叶うのは、もう少し先になるかもしれない。