1年後、多分また梅雨はやってきて、僕は蒸し暑い夜を過ごしている。
君は「眠れないね」と言いながら隣でごろごろと寝返りを打つ。
雨の音を聴いてため息をつくような、そんな馬鹿みたいに単純な時間を過ごしていたらいい。
1年後、ふたりで答え合わせしよう。
▷1年後
あなたがいたからここまで生きてきた。
あなたがいない今、どうやって生きていけばいいかわからない。
お気に入りのカーディガンも、買ったばかりのマニキュアも、毎日使っているお箸も、どこかへ行ってしまった。
あなたが隠してしまったの?
そちらの世界も寂しいのかな。
あなたがいなくなってから私は探し物ばかりしているよ。
▷あなたがいたから
朝からツイてない。
悪夢にうなされ半泣きで起きたし、コンタクトつけようとしたら洗面台に落としたし、食パンは焦がしたし、星座占いは最下位だったし、電車は遅延しているし。
「おはよ」
乗り換え途中、後ろから声をかけられた。
振り向かなくても誰かなんてすぐわかってしまうから余計に厄介だ。
ああもう最悪。
「一緒に行こうよ」
今日はアイラインよれてるし、髪もうまく巻けていないし、顔も浮腫み気味なのに。
それに、この格好変じゃないかな。
汗くさくないかな。
的外れな会話になってないかな。
ああもう最悪だ、最高で最悪だ。
▷最悪
突然の大雨に鞄から出そうとした折り畳み傘をしまった。
昇降口で雨宿りしている君を見つけたから。
「すごい雨だね」
「ね。傘持ってくれば良かった」
何気ない会話なのに大きく響く鼓動。
雨の音がそれをかき消してくれる。
「通り雨かな」
「この感じだときっとそうだよね」
本当は天気の話なんてどうだっていいんだ。
僕が話したいことは、ずっと前からひとつだけ。
「今日の小テストどうだった?」
「全然だめ」
「おれも」
臆病な僕とふふっと柔らかく笑う君。
その笑顔は雲間から差し込んだ光みたいだ。
「雨、早く止むといいね」
気持ちとは裏腹な言葉を吐くと、君は首を横に振った。
「……私はまだ止んでほしくないかも」
そう言って照れた笑顔を見せた君に、さっきと同じように「おれも」と返事するだけで精一杯だった。
▷ 天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、
愛があれば何でもできる?
できないよ。
あなたが隣にいなきゃ何もできない。
こんな世界に立ち向かえないし、息さえうまく吸えない。
愛だけ残されたって何もできないよ。
この感情だけ迷子のままで、今も膝を折って泣いている。
頭を撫でてキスをしてお揃いの愛をちょうだい。
それが無理ならこの愛を粉々に打ち砕いてほしい。
そうしたら私は何でもできるかもしれない。
▷愛があれば何でもできる?