自転車に乗って坂道を下る。
ギアはいつも2だ。少し錆びついたベルに指を乗せ、どこまでも降りてゆく。
チャリでニケツなんて夢見た頃があったっけ。結局、校則違反やら交通法違反やら理由をつけてやらなかったな。
彼女を乗せた自転車は悪路に入ったようで、ガタガタと揺れている。
昔見た映画の主人公は、男の子が改造した自転車で空を飛んでいた。この自転車でネバーランドにでも連れて行ってくれればいいのに。
なんてくだらないことを考えてしまうような真昼の午後2時だった。思考すらも溶かしてしまうような暑い暑い天気だ。
自転車とネバーランドを夢見た私が向かう先は、いつも通りの日常。
せめて、自転車ぐらい買い替えたいな。
自転車は最後の登り坂に入っていた。
君の奏でる音楽は、私に安らぎを与え、時には感動をもらい、そして優しく寄り添ってくれる。
私にとって貴方は、何物にも代えがたい一番星なんだ。
たとえその光の強さのあまり目が眩んだとしても尚、私は貴方のメロディーを、歌声を、輝きを欲するだろう。
私の奏でる音楽は、醜く、時には私を救い、落ち着かせ、そして激しく焦りを覚える。
星が眩しければ眩しいほど、夜空の暗闇は深くなるばかりだ。
私は星空の存在を知っているが、星々は私の存在など知る由もない。
君の奏でる音楽は、私を救う讃歌であると共に、私を地獄へと誘う焦燥曲だ。
終点……すなわち終わりの点、だろう
それは当たり前のことか。
彼は生き急いでいるかの如く、忙しなく走る電車を見て、ふと思った。
ガタン、ガタン─ガタン、ガタン─
この電車たちも終点へ向かっている。そしていずれ着き、また廻っていくのだ。
そんな喧騒も落ち着き、終電を迎えた頃。無人駅は心地よい静寂に包まれていた。
「…………………」
彼の瞳の中に、暗闇の中の銀の棒が映る。
夜明けを希望の象徴と捉えた先人は、何を思っていたのだろうか。
夜が終点で朝は出発点、になるのか。
こんな沈みこんだ出発点があってたまるか。
いや、思い込みだな。
─もうじきに、夜は明けてしまうだろう。