玲奈

Open App
2/19/2023, 6:51:28 AM

今日にさよなら

毎回、昨日が終わると今日がきて、今日が終わると明日がくる。
今日というものは、今日のうちは主役になれるけど、昨日から見た今日は新キャラクターなわけだし、明日から見た今日は脇役になってしまう。
毎日毎日当たり前のようにくる今日によって、沢山の1日たちが主役を任されたり脇役にならなきゃいけなかったり、私はもう、そんな可哀想な今日たちを見ていられなくなったの。
だから私は、今日でこの負の連鎖を断ち切ろうと思う。
正直、こんなの無理矢理すぎるし、ただ自ら死ぬ理由にしたいだけだったけど、こんな風に、何かのために命を犠牲にするなら、私も、主役になれると思ったの。
今日死ぬために今日まで生きてきた。そう思う他なかった。
じゃあね、今日の私。

2/14/2023, 12:30:17 PM

バレンタイン

「あの、好きです。」
チョコレートを渡すとともに咄嗟に出た言葉。
情けない声が放課後の静寂に溶けていくのが自分でも分かり恥ずかしくなった。
「それで?」
君の強気な言い方は、今にも消えてしまいそうなか細い声にはとても似合わなかった。でも、僕は君のそんなところが好きになったんだ。僕は知っているよ。いつもツンとしているけど、本当は優しいこと。だから、自信をもって君に伝えられる。
「僕と付き合ってほしいです。」
僕がそう言った瞬間、君は優しく微笑み、ゆっくりと口を開いた。
「その言葉が聞きたかった。お願いします。」

2/13/2023, 10:23:09 AM

待ってて

先日、黄色のランドセルカバーを外したばかりの娘が大きな道の真ん中で寝てしまった。お目々を大きく見開かせて、手をお人形さんみたく色んな方向に曲げて、口にはいちごジャムをつけていた。私の娘はお茶目さんなんだ。
百合の花がよく似合う女の子で、沢山の人から百合の花をもらったのに、あまり嬉しそうな顔はしていなかった。
ふと部屋の隅を見ると娘がいるときもあるけど、それもきっと、魔法の小瓶のおかげなんだ。
でも昨日、ついに決心したんだ。私、あの子の元にいく。
待っててね。私の天使ちゃん。

2/13/2023, 10:17:05 AM

伝えたい

橙色の夕日が落ちる放課後の屋上に、君はいた。
急いで階段を駆け上ってきたから上手く発声できなかったが、本当に、心の底から伝えたかったんだ。
「駄目、とは言わないけど……やめてほしい。」
目に溢れんばかりの涙を浮かべた君が振り向く。
「でも、これは私が決めた結末なの。私は、私の人生の主人公になれなかった。」
昔、彼女からある話を聞いたことがあった。小さな頃から本が好きだったという彼女は、常に主人公に憧れていて、社会の汚さや愚かさに絶望したとき、自分は主人公になれないと思ってしまったとき、自ら命を絶つ予定であったそうだ。それが、今日だった。
「そっか……。でも、少なくとも、僕の人生の主人公は、今も、これから先も、ずっと君だよ。」
「……ありがとう。」
そう言って君は顎あたりまで高さのある柵から降りてくれた。
こんな形で告白してしまったことが情けなく恥ずかしかったが、今は何よりも、君の人生が終わろうとする瞬間に立ち会えたことを、そして、とめられたことをとても嬉しく思う。
普段ならあまり人に関心をもつことができない僕でも、伝えたいと思えた。
だからきっと、どんな人でも、心の底から伝えたいと思えたことは必ず伝えることができる。
自分の行動はどんなときだって、より良い未来を引き寄せる鍵になる、と僕はそう信じている。

2/11/2023, 12:38:34 PM

この場所で

木漏れ日の落ちる川に足を入れながらはしゃぎまわった小3の夏___
その日は山の上にある神社で夏祭りが行われていて、始まるのは夕方5時からだったのに、楽しみすぎて2時から近くの公園に集まったんだ。
小さな屋根の下に5人で座って、駄菓子を食べながらみんなでゲームをしたり、シール交換をしたり、飛んでいった友達の麦わら帽子と追いかけっこしたり。
あの頃に比べれば、世界は色褪せてきたけれど、記憶のなかの私達はいつまでも変わらぬまま、沢山の色で溢れた世界に目を輝かせている。
だから___
きっといつかまた、この場所で。

Next