もう一つの物語
「なぁ?この世界の他に、世界があるって知ってるか?」と友人が僕に言ってきた。
「はぁ?」と僕から間抜けな声が出た。
友人はそんな僕を見ながら、話を続けようとする。
僕はそんな友人に言う。
「そんなの作り話かなんかだろ。
なんつったけ?“並行世界”とか“Another World”とか言ったけ?そんなもんは所詮娯楽で作られたもんだろ。『本当に世界移動した』とか言って海外の奴らは動画にするけどさぁ…あれはただ単に寝ぼけたか、勘違いだろ。思い違いにもほどがあるだろ。」
僕が呆れながら言うと、友人はいつにも増して真剣な表情で僕を見つめる。
「…………………………」
友人は何か言いたげにしていた。
僕が「何黙ってんだよ。言わなきゃ分からんよ」と苛立ちを露わにしながら言うと、友人は周りに人がいないことを確認し小声で話し始めた。
「実は…“俺”は別世界の“俺”と入れ替わったんだ」
真剣な顔をしながら話す友人に、我慢できなくなり吹き出してしまった。困惑している友人を見てより笑ってしまった。
「そんなことねーよwてかいつも“俺”って言わねーじゃんw」俺がそういうと友人は「そうだよな!」と言って「嘘だよw」と笑っていた。
「やっぱ嘘じゃんかw」
「…嘘じゃないだけどな……」
この時僕が笑っているのを冷たい目で見ていたのは知りもしなかった。
もしかしたら本当に別世界があって、もう一つの物語が存在するのかもな。
暗がりの中で
僕の世界は暗いままだ。
誰も僕の事なんて思ってもくれない。
だけどね。
君が灯りを持って照らしてくれた。
だから。
今度は僕が君を助ける番だ。
待っててね。
カーテン
カーテンを開けると、眩しいばかりの光が溢れてくる。窓から入ってくる少し肌寒い風が、淡い色のカーテンを靡かせる。
「よし。今日も頑張るぞ!」
そう意気込んで自分に喝を入れる。
そっとカーテンが靡き、自分を応援している様だった。
命が燃え尽きるまで
⚠️死亡表現あり⚠️
今日も人間界に降りる。
そっとビルの屋上に腰掛け、リストを確認する。
「今日は誰かなぁ?」
ペラっとページを捲る。
「へぇ…この人ねぇ…若いのになぁ…勿体無いね。」
リストを閉じた瞬間、下の方で沢山の悲鳴が聞こえた。下では耳が痛くなるほどの騒音や悲鳴。
私はビルの屋上から飛び降りる。
音も立てずに降りて、現場確認。
ほとんどの人は私を視る事はで出来ないが、たまに私の事が見える奴がいる。私は現場確認を終えて、魂だけが出ているモノを探す。
「おっ!いたいた。」
私は魂だけになったモノの腕を掴んで、連れて行こうと開いた瞬間、後ろから声をかけられた。
「…あの…憐さんを何処に連れていくんですか…」
声をかけてきたのは、か弱そうな男性。
一見女に見間違えそうになる。
私の事が視えるのか…たまにいるんだよなぁ。事故に遭遇した人が衝撃で、一時的に視えるようになるって。私が一人で納得していると、男性は泣きそうな声で、言葉を紡ぐ。
「…連れて行かないで。俺の事を認めてくれた…唯一の人なのに…好きだったのに…。」
その場に泣き崩れる男性を見て、私はなんともいえなくなってしまった。
『同性愛が嫌だ』とかではなくて、此方も仕事をしているだけだ。私だって本当はしたくない仕事だ。
だが、《死神》として生まれてきてしまったものだから、私にどうこう言っても変わらない。
私は一旦それを置いておき、男性に近づき優しく話しかける。
「すみませんねぇ…私だって本当は戻してあげたいのですが…今日のリストに載っていない人がね?本来なら連れていくのは、貴方だったはずなんですよ。」
私がそう言うと、男性は声を荒げて言う。
「だったら!憐さんじゃなくて…俺を連れてけよ!
なんで憐さんなの…。」
私が対処に困っていると、憐さんだったモノがそっと男性の頭を撫でる。
『ごめん。僕…湊が危ないって思ったら。別に僕が勝手にやった事。湊は自分を責めないで?僕は向こうで待ってるから、《命が燃え尽きるまで》生きて。』
そのモノはそっと男性から離れると、私の袖を引っ張り、『にこり』と微笑む。
「…もういいんですか?」
私がそう尋ねると、それはコクリと頷く。
私は未知の空間を開く。開かれた空間は光に暖かい光に満ちた場所だった。憐は振り返り、男性に手を振り空間に入る。入った瞬間空間は元に戻り、何事もなかったかのように日常に戻る。
男性はただ単にその場に泣くしかなかった。
『今までありがとう』
そう聞こえたらしい。
《誤》
蒼 憐 アオイ レン 20歳
死亡時刻 20XX年 XX時 XX分
死亡理由 事故死
《失》
茶川 湊 チャキ ミナト 25歳
死亡時刻 20XX年 XX時 XX分
死亡理由 事故死
『茶川 湊』は想い人に助けらた。
代わりに『蒼 憐』が死亡。
急『茶川 湊』の対処を。
私はリストにそう書き加えた。
胸の鼓動
今日も『ドクッドクッ』っと胸の鼓動が聞こえる。
人の生命の源。
鼓動が続く限り、人は生き続けるだろう。
私も彼も鼓動が続く限りなんだろう。
私はそう思いながら、ベットで眠る彼の頬を撫でる。
彼は病気で植物状態。
私は毎日彼に会いに病院に行く。
起きないと分かっていても…。
今日も彼に会いに行く。
分かっていながらも…。