失われた時間
俺は雨が降る中、とある墓地に歩みを寄せていた。
彼女の所に着くまで、彼女との想い出を振り返る。
彼女は病弱だった。
しかし、生きようとする姿がとても美しかった。
運命には逆らえないが、儚くも生きたいと思う心は言葉に表せられないほど、
美しく綺麗なものだった。
触れてしまえば、壊れてしまいそうな瞳は、誰のことを映し出していたのだろうか。
それが俺だったらよかったのにな。
今になって気になっても、
彼女はもう覚める事はない。
想い出に浸っていると、彼女が眠る場所に着いた。
俺は持っていた、紫色のクロッカスと赤いアネモネの花束を置いて、手を合わす。
毎年彼女の命日には訪れる。彼女の声は聞こえないけれど...
なんとなく彼女が傍に居る様な感覚がする。
「なぁ…お前がいなくなってから…
もう10年の時が経つ。俺はお前がいなくなって、生きる気力が無くなりかけている。お前がいなくなってから、俺の中の時間は止まっているようだ。だが、時と言うものは残酷で、止まっている様に感じさせて、本当は失わさせているんだ。まぁ…お前には難しいだろうがな…。」
そう言いながら、そっと墓石を撫でる。
嗚呼…
もうお前に触れる事ができなくて、寂しいな。
俺もそろそろ其方に逝きたいな…。
そう思っても、お前は『まだ早いよ』なんて言うだろうな。
俺は立ち上がり、彼女に言う。
「まだ其方には、行けないみたいだ。もし行ける様になったら、迎えに来てくれよな…。」
そう言って墓地を後にした。
《貴方の事愛していますよ》
紫のクロッカス:“愛したことを後悔する”
赤いアネモネ :“君を愛す”
子供のままで
大人になんてなりたくない。
時々夢の世界に、大人になった自分が出てくる。
そして僕の方に振り返って言う。
『なぁ…お前は大人になりたいか…?』
毎回同じ質問をする。
僕は相変わらず何も答えられない。
僕が答えられないと、大人の僕は頭を撫でてくる。
『しょうがないもんなぁ…
子供のお前は今まで愛された事がないから、大人になんてなりたくないもんな。』
そう言いながら、また僕の頭を撫でる。
今回もそう言う夢を見た。
だけど今回は少し違った。
大人の僕の隣に誰か立っていた。
大人の僕が見ていることに気がついたのか、こっちに手を振ってきた。
急いで駆け寄ると、僕の頭を撫でて言う。
『いつまでも子供のままでいたいと思うけど、いつかは大人になっちまう。だけどな、今隣に立っている奴は、将来俺の相棒だ。』
僕が困惑していると、前髪の長い男性が僕を抱きしめてくれた。
その暖かさが嬉しかった。
初めて僕は声を上げて泣いた。
愛を叫ぶ
どんなに叫んでも…
遠くにいる君には僕の声なんて届かないだろう。
だけど声が枯れるまで君のために愛を叫ぶよ。
この想いは決して誰かに掻き消されないだろう。
俺は君が思っているより、
君のことを愛しているよ。
だから、
待っていてくれ。
すぐには、其方にいけないけど、
いつかは
会いにいくよ
だから、
俺が君の所にいった時は
泣かずに
笑顔で
迎えて欲しい。
モンシロチョウ
俺は大切な人を探してる。
約束したんだ。
『生まれ変わっても、ずっと一緒だよ。』
だから、彼を見つけるまで死ねない。
前世は戦争時代。俺はその時死んでしまった。
大切な彼を置いて。
「今日もダメか…」
あれからずっと探している。
彼を見つけようとしても、見つからない。
親友達は「諦めろ」なんて言うけど、彼は俺のことを待っているはずだ。
そう思いながら、彼のことを探すが見つからない。
俺は疲れ切って公園のベンチに座った。
ふと足元を見ると、深緑色の四葉のクローバーを見つけた。それが懐かしく思えた。
前世の頃、俺は四つ葉のクローバーを模った、ペンダントを彼にプレゼントした。
その時の彼は、頬を赤く染めながら受け取ってくれた。その顔が印象的でよく覚えている。
思い出に浸っていると、自然と涙が流れた。
「逢いたいよ…。どこにいるの…。」
何が白いものが視界に入った。
“モンシロチョウ”だ。俺は可愛いなと思いながら、見つめていると、モンシロチョウは俺の頭の上をヒラヒラと舞い始めた。俺が不思議そうに見ていると、何処かに着いて来いと言わんばかりに、しつこく俺の前で舞っていた。
俺はそのモンシロチョウに着いていった。
着いた場所は花畑だった。
色とりどりの花が咲き乱れていた。
こんな場所は知らなかった。
俺がぼんやりと見ていると、モンシロチョウは真っ直ぐ飛んで行き、座っている人の手に止まった。
その人は鈴を転がしたような声で、優しい声で笑っていた。この声聞いた事がある。そう思った瞬間呼んでいた。
「…翡翠…?」
“翡翠”と呼ばれた人は吃驚しながら振り返った。
俺は翡翠の元に駆け寄って、力一杯抱きしめた。
翡翠も抱きしめ返してくれた。
『爛だぁ…やっと、やっと逢えたよぉ…』
翡翠は涙声で俺の名前を呼んでくれた。
俺は翡翠に伝えたいことを伝えた。
「今度はずっと一緒だよ…。」
そう言うと俺はもう一度、翡翠を抱きしめた。
今度は絶対に離れない。
神様今度こそ一緒にいさせてください。
忘れられない、いつまでも。
嗚呼…なんて人間は醜い生き物なのだろうか。
私がいくら彼に恋焦がれようが、私はあの人には伝えたくない。伝えてしまえば、彼は優しいから断らないだろう。人の命は桜の花みたいに短命だ。
人は美しく生き、美しく死んでゆく。
九尾の私は人の命の何百倍も長い。
今まで恋なんてしてこなかった。そもそも人と関わりもしなかった。だから、人はいつの間にか私のことを恐れる様になっていった。
それでよかったのに…彼は私に歩み寄ろうとした。
何日も何年も…。
人は歳をとり、見た目も変わってゆく。
それに比べて私は永遠に変わらない。
私が一年と感じた時間は、人にとっては十年の時間
だんだんと彼も見た目が変わってゆき、気づいた時は老人になっていた。
そして彼は私の横で永遠の眠りについた。
妖怪は難儀な生き物だ。
こんな永い命なんてなくなればいいのに。
人に憧れた九尾は人にはなれない。
“忘れられない、いつまでも。”私は彼を待つ。