SHADOW (めちゃくちゃ不定期)

Open App
5/13/2024, 11:52:25 AM

失われた時間

 俺は雨が降る中、とある墓地に歩みを寄せていた。
彼女の所に着くまで、彼女との想い出を振り返る。
彼女は病弱だった。
しかし、生きようとする姿がとても美しかった。
運命には逆らえないが、儚くも生きたいと思う心は言葉に表せられないほど、
美しく綺麗なものだった。
触れてしまえば、壊れてしまいそうな瞳は、誰のことを映し出していたのだろうか。
それが俺だったらよかったのにな。
今になって気になっても、
彼女はもう覚める事はない。
想い出に浸っていると、彼女が眠る場所に着いた。
俺は持っていた、紫色のクロッカスと赤いアネモネの花束を置いて、手を合わす。
毎年彼女の命日には訪れる。彼女の声は聞こえないけれど...
なんとなく彼女が傍に居る様な感覚がする。
「なぁ…お前がいなくなってから…
もう10年の時が経つ。俺はお前がいなくなって、生きる気力が無くなりかけている。お前がいなくなってから、俺の中の時間は止まっているようだ。だが、時と言うものは残酷で、止まっている様に感じさせて、本当は失わさせているんだ。まぁ…お前には難しいだろうがな…。」
そう言いながら、そっと墓石を撫でる。
嗚呼…
もうお前に触れる事ができなくて、寂しいな。
俺もそろそろ其方に逝きたいな…。
そう思っても、お前は『まだ早いよ』なんて言うだろうな。
俺は立ち上がり、彼女に言う。
「まだ其方には、行けないみたいだ。もし行ける様になったら、迎えに来てくれよな…。」
そう言って墓地を後にした。

《貴方の事愛していますよ》


紫のクロッカス:“愛したことを後悔する”
赤いアネモネ :“君を愛す”

5/12/2024, 11:03:43 AM

子供のままで

 大人になんてなりたくない。
時々夢の世界に、大人になった自分が出てくる。
そして僕の方に振り返って言う。
『なぁ…お前は大人になりたいか…?』
毎回同じ質問をする。
僕は相変わらず何も答えられない。
僕が答えられないと、大人の僕は頭を撫でてくる。
『しょうがないもんなぁ…
子供のお前は今まで愛された事がないから、大人になんてなりたくないもんな。』
そう言いながら、また僕の頭を撫でる。

 今回もそう言う夢を見た。
だけど今回は少し違った。
大人の僕の隣に誰か立っていた。
大人の僕が見ていることに気がついたのか、こっちに手を振ってきた。
急いで駆け寄ると、僕の頭を撫でて言う。
『いつまでも子供のままでいたいと思うけど、いつかは大人になっちまう。だけどな、今隣に立っている奴は、将来俺の相棒だ。』
僕が困惑していると、前髪の長い男性が僕を抱きしめてくれた。
その暖かさが嬉しかった。
初めて僕は声を上げて泣いた。

5/11/2024, 10:56:51 AM

愛を叫ぶ

 どんなに叫んでも…

遠くにいる君には僕の声なんて届かないだろう。

だけど声が枯れるまで君のために愛を叫ぶよ。

この想いは決して誰かに掻き消されないだろう。

俺は君が思っているより、

君のことを愛しているよ。

だから、

待っていてくれ。

すぐには、其方にいけないけど、

いつかは

会いにいくよ

だから、

俺が君の所にいった時は

泣かずに

笑顔で

迎えて欲しい。

5/10/2024, 11:09:01 AM

モンシロチョウ

 俺は大切な人を探してる。
約束したんだ。
『生まれ変わっても、ずっと一緒だよ。』
だから、彼を見つけるまで死ねない。
前世は戦争時代。俺はその時死んでしまった。
大切な彼を置いて。

 「今日もダメか…」
あれからずっと探している。
彼を見つけようとしても、見つからない。
親友達は「諦めろ」なんて言うけど、彼は俺のことを待っているはずだ。
そう思いながら、彼のことを探すが見つからない。
俺は疲れ切って公園のベンチに座った。
ふと足元を見ると、深緑色の四葉のクローバーを見つけた。それが懐かしく思えた。
前世の頃、俺は四つ葉のクローバーを模った、ペンダントを彼にプレゼントした。
その時の彼は、頬を赤く染めながら受け取ってくれた。その顔が印象的でよく覚えている。
思い出に浸っていると、自然と涙が流れた。
「逢いたいよ…。どこにいるの…。」

 何が白いものが視界に入った。
“モンシロチョウ”だ。俺は可愛いなと思いながら、見つめていると、モンシロチョウは俺の頭の上をヒラヒラと舞い始めた。俺が不思議そうに見ていると、何処かに着いて来いと言わんばかりに、しつこく俺の前で舞っていた。
俺はそのモンシロチョウに着いていった。

 着いた場所は花畑だった。
色とりどりの花が咲き乱れていた。
こんな場所は知らなかった。
俺がぼんやりと見ていると、モンシロチョウは真っ直ぐ飛んで行き、座っている人の手に止まった。
その人は鈴を転がしたような声で、優しい声で笑っていた。この声聞いた事がある。そう思った瞬間呼んでいた。
「…翡翠…?」
“翡翠”と呼ばれた人は吃驚しながら振り返った。
俺は翡翠の元に駆け寄って、力一杯抱きしめた。
翡翠も抱きしめ返してくれた。
『爛だぁ…やっと、やっと逢えたよぉ…』
翡翠は涙声で俺の名前を呼んでくれた。
俺は翡翠に伝えたいことを伝えた。
「今度はずっと一緒だよ…。」
そう言うと俺はもう一度、翡翠を抱きしめた。


今度は絶対に離れない。


神様今度こそ一緒にいさせてください。

5/9/2024, 11:05:59 AM

忘れられない、いつまでも。

 

 嗚呼…なんて人間は醜い生き物なのだろうか。


 私がいくら彼に恋焦がれようが、私はあの人には伝えたくない。伝えてしまえば、彼は優しいから断らないだろう。人の命は桜の花みたいに短命だ。
人は美しく生き、美しく死んでゆく。
九尾の私は人の命の何百倍も長い。
今まで恋なんてしてこなかった。そもそも人と関わりもしなかった。だから、人はいつの間にか私のことを恐れる様になっていった。

それでよかったのに…彼は私に歩み寄ろうとした。
何日も何年も…。
人は歳をとり、見た目も変わってゆく。
それに比べて私は永遠に変わらない。
私が一年と感じた時間は、人にとっては十年の時間
だんだんと彼も見た目が変わってゆき、気づいた時は老人になっていた。

 そして彼は私の横で永遠の眠りについた。

妖怪は難儀な生き物だ。
こんな永い命なんてなくなればいいのに。
人に憧れた九尾は人にはなれない。

“忘れられない、いつまでも。”私は彼を待つ。

Next