たやは

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8/22/2024, 3:35:22 AM

鳥のように

ここまで来て負けるわけにいかない。鳥のように飛べなくてもいい、ノーミスで次に繋げていけば必ずチャンスが巡ってくると信じて、自分自身を信じて、仲間を信じて、ただやれることをやるだけ。

ボール
クラブ
フープ
リボン

新体操の団体戦が開催される総合アリーナに到着してすぐに会場での練習が行われ、本番へん準備を進めていく。どの学校も強豪だ。ヒビってはいられない。今までたくさん、たくさん練習してきた。練習は裏切らない。「大丈夫。大丈夫」と自分に言い聞かせ、仲間と頷きあい13m四方のマットフロアに整列する。

「いくよ」
「はい!」「はい」「はい!」「はい!」

キャプテンの掛け声とともにフープとボールを持ち、1列にフロアに入っていく。
曲がかかり私たちの戦いが始まる!


やっぱり、鳥でなければダメなのか。
私たちは優勝できず全国大会への切符を手にすることはできなかつた。何か所かミスしてしまい、思うように点数が加点されなかったのだ。涙が止まらない。 
悔しい。悔しい。あんなに頑張ったのに。

「頑張りましたね。でも、あなたたちは技術的にも芸術性についてもまたまだ未熟です。ノーミスだけでは技術点は加点されないし、見てくださる方に感動もあたえられません。」

そこにいたのは、コーチと元全日本強化選手の先輩だった。先輩は将来有望と言われていたがケガで現役を引退したばかりだ。学校の先輩ということもあり、私たちの憧れの的だ。先輩に直接声をかけてもらい、涙も止まった。いや、嬉し涙が滲んできた。私だけの話しではないが、その後、浮かれていたのかどうなったのかよく覚えていない。

次の日の部活で整列した私たちの前に先輩が立っていた。

「これから、あなたたちのコーチに加わることになりました。私の指導は厳しいと思いますが、あなたたちならできるはずです。私は見ている人に感動を届ける新体操がやりたいと思っています。成熟していきましょう!」

私たちが白鳥となって飛び立つ日も近い。

8/20/2024, 11:51:14 AM

さよならを言う前に

仕事から帰宅すると真っ暗なリビングの机の上に紙切れが置かれていた。私の名前と旦那の名前が書かれた離婚届だ。先週、旦那にサインをするように言いつけて渡したものだ。これを市役所に出せば離婚が成立する。

さよならを言う前にもっと話し合う機会があったのかもしれない。旦那に好きな人ができた時、浮気ではなくその人と結婚を考えていると言われた時。話し合うタイミングはいくらでもあったはずだが、私はすでに旦那に興味がなくなっていた。それが一番の問題だったのかもしれない。興味のなくなった人とは暮らせない。それが答えだった。

学生時代から付き合いはじめ、15年以上一緒にいてたくさん笑いあった。
もう、あの頃には戻れないけど、ただ、さよならを言う前にもう一度だけ笑って欲しかった。

たたそれだけが心残りだ。

8/19/2024, 8:03:55 PM

空模様

卒業論文の題材として自分の住む街の歴史について調べてみよう思っている。私が住んでいるところは、40年くらい前に小さな村々が合併して1つの市となっている。私たち家族は、ご先祖さまの時から市の中心地に住んでいると祖父から聞いていた。
私の知らない村の痕跡や逸話があるかもしれない。それをまとめてみたかった。

自転車の乗って自分の家から西に10分ほど走ると小さな祠が見えてくる。初めて来たがここも小さな村だった場所だ。祠の斜め前にこの祠についての解説文が付いた立て看板が立ていた。
そこには書かれていたのは祠の成り立ち。

「この祠は龍の神様を祀り、雨乞いの儀式がここで行われていた。古い時代の雨乞いでは若い女性が生贄とされて、それを拒むと雨が振らなかったという言い伝えもある」

雨乞いの儀式?
どんなものか想像ができない。祠に近づいて祠の中を覗き込むが暗くて何も見えないし、ホコリぽいだけだ。

その時、急に雷が鳴り、空模様が怪しくなってきため急いで自転車に乗り漕ぎ出す。灰色の大きな積乱雲が厚く重なりあっているような雲が見える。あんな雲見たことがない。

どうして。
もう10分以上自転車で走っているのに家に着かない。

『みつけたぞ』

雷の轟に混ざってしわがれた声のようなものが聞こえてた。
え?なに?
後ろを振り返ると黒く大きな雲の隙間から金色に光った鋭い切れ長の眼がこちらを睨んでいた。
驚いて自転車のブレーキをかけるがスピードが出ていたため止まりきれず転んで膝を擦りむいしまったが、立ち止まる訳にはいかない。起き上がり慌てて走り出す。

雲から鱗をつけた長い胴体が出て来て私に向かって降りてくる。
私のご先祖さまは、市の中心地に住んでいたのではなく、この村に住んでいたのだ。
そして、雨乞いの生贄を出すように村から命じられたが、選ばれた女性は逃げ出した。

逃げないと!

走る。走る。
誰が走っているのか。
私なのか。別の誰かなのか。
砂利道が見える。走る私の服の裾が見えるが、着物は走りにくい。私は着物なんて着てなかった。
私は関係ない。生贄なんて知らない。
どうして私なのか
あの生贄の女性は逃げれたのだろうか?
だから、私が変わりに捕まるのか

強く雨が降りはじめた。




8/18/2024, 12:18:38 PM



鏡よ、鏡、この世で一番美しいのは誰?

ああ。そんなこと考えて鏡の前に陣取ってる私は誰よ。なんか悲しい。綺麗な人がいいなら最初から声かけてくんな。

昨日は泣いた。さんざん泣いた。
私は振られたのだ。2年も付き合ったのに急に「別れたい」と言われた。
私にとっては急でもアイツはそうでもなかったらしく、別に付き合っている綺麗な人がいたらしい。二股かけられて振られた。
白雪姫の真実を写す魔法の鏡があれば、もっと早くアイツの悪事を知ることができたかもしれない。欲しかった魔法の鏡。
とはいえ、薄々別れ話が出ることに気がついていたが、気がつかないフリをしていた。どうせならこっちから振ってやるば良かった。なんか、こっちから別れ話を切り出すのは負ける気がしたのだ。
しかたがない。私にもプライドがある。小さいけど立派なプライドが。そのせいで、振られて惨めな気持ちになっているのだから世話ないけど。

鏡よ、鏡、この世で一番不幸なのは誰?

自宅の姿見に問うてみる。もちろん答えはないが、私はそれほど不幸ではない。
美味しい物を食べ、友達がいて、仕事があり、次は楽しい恋愛をしてみたいと思っている私は不幸ではない。
あ!
もし、アイツの不幸を望んでいいなら「彼女と2人で水虫になれ」くらいかな。

鏡がなくても幸せに生きていける

8/17/2024, 11:26:48 AM

いつまでも捨てられないもの

机の引き出しの奥にずっとある千代紙で巻かれた小さな箱、その中にはどんぐりの実が2つ入っている。
いつからそこにあるのかはっきり覚えてはいない。いつも箱の事を思っているわけではないので、引き出しの中のノートをゴソゴソとしていると指先が箱に当って気づく程度だ。でもなぜか、いつまでも捨てられないものだ。

なぜ捨てられないのだろう。

箱から2つのどんぐりを出して手のひらに乗せ握ってみる。なんだろう。手も心もホァーと暖かくなる感じがする。なぜ。
何か忘れていることがある。なんだろう。 
もう少しで思い出せそう。

夕闇が迫りくる公園で私は誰かと会う約束をしていた。誰だろう。
その誰かは大事な人だった。2人で遊ぶことが多く、このどんぐりは隊員である2人の隊員バッチみたいな物だった。
約束の公園には行くことができずに時が流れ、私の手元にはどんぐりだけか捨てられずに残っている。

昨日から私は出張で東京に戻って来ていた。東京は小さい頃に住んでいたこともあり、多少は土地勘があるが、開発が進み以前とは全く別の都会になっていた。
駅の改札を出たところで誰かにぶつかった。

「すみません」

この声聞いたことがある。
その人が落としたカバンから私と同じ千代紙の箱が飛び出していた。思わずその箱を拾い上げて振ってみるとカロコロと私のあの箱と同じ音がした。
驚いて顔を上げれば、そこには、あの日公園で会う約束をしたあの子が成長した姿で微笑んていた。

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