空模様
卒業論文の題材として自分の住む街の歴史について調べてみよう思っている。私が住んでいるところは、40年くらい前に小さな村々が合併して1つの市となっている。私たち家族は、ご先祖さまの時から市の中心地に住んでいると祖父から聞いていた。
私の知らない村の痕跡や逸話があるかもしれない。それをまとめてみたかった。
自転車の乗って自分の家から西に10分ほど走ると小さな祠が見えてくる。初めて来たがここも小さな村だった場所だ。祠の斜め前にこの祠についての解説文が付いた立て看板が立ていた。
そこには書かれていたのは祠の成り立ち。
「この祠は龍の神様を祀り、雨乞いの儀式がここで行われていた。古い時代の雨乞いでは若い女性が生贄とされて、それを拒むと雨が振らなかったという言い伝えもある」
雨乞いの儀式?
どんなものか想像ができない。祠に近づいて祠の中を覗き込むが暗くて何も見えないし、ホコリぽいだけだ。
その時、急に雷が鳴り、空模様が怪しくなってきため急いで自転車に乗り漕ぎ出す。灰色の大きな積乱雲が厚く重なりあっているような雲が見える。あんな雲見たことがない。
どうして。
もう10分以上自転車で走っているのに家に着かない。
『みつけたぞ』
雷の轟に混ざってしわがれた声のようなものが聞こえてた。
え?なに?
後ろを振り返ると黒く大きな雲の隙間から金色に光った鋭い切れ長の眼がこちらを睨んでいた。
驚いて自転車のブレーキをかけるがスピードが出ていたため止まりきれず転んで膝を擦りむいしまったが、立ち止まる訳にはいかない。起き上がり慌てて走り出す。
雲から鱗をつけた長い胴体が出て来て私に向かって降りてくる。
私のご先祖さまは、市の中心地に住んでいたのではなく、この村に住んでいたのだ。
そして、雨乞いの生贄を出すように村から命じられたが、選ばれた女性は逃げ出した。
逃げないと!
走る。走る。
誰が走っているのか。
私なのか。別の誰かなのか。
砂利道が見える。走る私の服の裾が見えるが、着物は走りにくい。私は着物なんて着てなかった。
私は関係ない。生贄なんて知らない。
どうして私なのか
あの生贄の女性は逃げれたのだろうか?
だから、私が変わりに捕まるのか
強く雨が降りはじめた。
8/19/2024, 8:03:55 PM