日見しぐれ

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9/1/2024, 10:33:11 PM

#21 開けないLINE

「LINE♪」

誰かから通知が来た。
しかも3件続けて。

「今暇?」

最後の文章だけがポップアップされた。

え、暇だったらなんだろう。

内容によっては暇じゃない。

今LINEを開いて既読をつけてしまっては
「暇」と認識されてしまうだろう。

でも、この前に送られてきた文章の中に答えがあるのかもしれない。

気になる。

開いてやろうか。

いや、待て。

「〇〇について聞きたいんだけどさ……」
「今〇〇と遊んでてさ……」

の2択がこいつの場合ほとんどだ。

開いて答えてしまえば早いのだが、こいつと関わるとろくでもないと心が騒いでいる。

だから僕はそっとLINEの通知を見ないフリした。

心の通知に既読をつけて従うことにした。


しぐれ

8/31/2024, 12:18:50 PM

#20 不完全な僕

「あなたってそういうところがダメだよね」

そう言われても「だから何」としか思えない。

その一言って結局個性を否定しているし、
自分の価値観を遠回しに
押し付けているだけじゃないのか。

別にそれを直したところであんたに利はないし。

それを言うあんただってダメなところはあるだろう。

なのに他人に対してはそういう言い方をして

自分は悪くない。

私はあなたのそういうところが嫌い。

と言ってくる。

他人を否定するその性格に対して
そのままそっくり言い返してやりたい。

そう思いながら右から左へ受け流す。

完璧な人なんてただのロボットだと思う。

不完全だからこそ他人の失敗を許せるし、
自他を認めることができる。

不完全な人間の方がよっぽど人間らしいじゃないか。


しぐれ

8/30/2024, 12:02:58 PM

#19 香水

「この花の名前知ってる?」

君が教えてくれた好きな花は
甘くて優しい果実のような香りがした。

秋が深まり、森は赤や黄色に染まるこの時期。

この香りを嗅ぐだけであの日のことを思い出す。

いつしか僕もこの香りの虜になっていた。

香水も、ハンドクリームも買ってみた。

いつでも君を思い出せるように。

忘れないように。

君に出会えたことで僕の人生は救われたよ。

「ありがとう」

お盆は過ぎてしまった。

けど、この金木犀を君に見せたかったんだ。

またどこかで会おうね。

白く細い煙とともに甘い香りが天に昇る。

本当の愛を教えてくれた君に贈る
初恋の香り。


しぐれ

8/29/2024, 1:19:45 PM

#18 言葉はいらない、ただ・・・

「愛されたかった」

今年で35歳。もういい大人が
こんな言葉を吐くなんてね。

誰からも愛される人になって欲しいって

「愛佳」って名前付けてくれたらしいけど

つけた本人は愚か、家族には

「お前なんていなければよかったんだ」

そう言われるのが日常茶飯事だった。

「愛ってなんだろう」

元彼には金づるにされた挙句、
愛だとか言い放ってDVの毎日。

最終的には警察に御用になって
そこからはお互い会ってもいない。

でも、本当の愛を知らなかった私からしたら

そんな毎日も幸せだった。

金づるでもいい。誰かから必要とされていたことが
私にとっては最幸なことだったんだ。

言葉で言うのは簡単だけど、
本当の愛を教えて欲しかったな……。

しぐれ

8/28/2024, 1:08:09 PM

#17 突然の君の訪問

今日は朝から天気が良かった。
昔飼っていた猫のタマは
こんな日にはいつも縁側でお昼寝してたっけ。

ふと昔飼っていた猫のことを思い出した。

タマは私が小学生の時に
学校の帰り道に捨てられていた。

まだ小さな子猫だったから捨てられた恐怖で
人を見るととても怯えていた。

だから慣れるまではそっとしておいたら
時間とともに甘えてくるようになってきた。

私が縁側で休んでいると
落ちてくる葉を頑張ってキャッチして
私の膝の上に置いては、枕みたいにしてたな。

なんだか懐かしくなり、
久しぶりに縁側でゆっくりしたくなってきた。

すると心地良い暖かい風がふわりと頬を撫でた。

「心地良い……寝ちゃいそう……」

気がつくと日が落ち始めて、空は赤く染まっていた。

「え、やばっ、もしかして寝てた?!」

立ち上がろうとすると、
膝の上に落ち葉が1枚
そっと置かれていることに気がついた。

「そうか、君もここで昼寝をしていたんだね」


しぐれ

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