香水
いつも安心できる、彼の香水の匂い。
もう嗅ぐことはないって思うと悲しいけど。
だけどたまに、彼の香水の匂いが鼻を燻る。
さよならを言う前に
私の友達がもうすぐ引越しをするらしい、ということを風の噂できいた。
引越し日はちょうど彼女の誕生日。たしか今年で20歳だっけ。
まだ引越しまではひと月ほどあった。私はそれまで彼女を色んなところに連れ回した。一緒に綺麗な景色をみたり、おそろいのブレスレットを買ったり。
そんなこんなであっという間に時間が過ぎた。
そして引越し前日。
「明日でお別れだね。」
「そうだね…。でも、東京の仕事に慣れてきたらこっちにも帰ってくるから!」
「えへへ、ありがとう」
「あ、もうこんな時間…!帰らなきゃ。
それじゃあ、また明日ね!」
「うん…!また明日」
「おっかしいなぁー…どこ探してもいない…。
もう電車の時間来ちゃうよぉ…」
時計とにらめっこをしながら、彼女は昨日会った友達を探している。
「もー、今度帰ってきたら文句言ってやるー!友達の門出も祝わずどこ行ってたんだーって。……ん?」コンっと、頭になにか落ちてきた。それは、あの子とお揃いで買ったブレスレット。
「なんでこれが…?ってあぁー!!電車行っちゃうぅ!!」
由紀はブレスレットの疑問を抱えながらも、それをしっかりと握りしめ駅のホームへ駆け出した。
その光景を、穏やかな表情をしながら見守っている子がいた。体はやや透けており、地面から少し浮いている。
「ずっとここにいたけど、やっぱり視えなくなっちゃうのかぁ…分かってたけど、いざこうなると寂しいや。」
そう言って、彼女は森の奥へ姿を消した。
病室
もう2年前ぐらいのことなんだけど、車に轢かれそうな彼女を庇ったことがあって。すっごい痛くて、これ死んだなって思ったんだけど、なんかまだ生きてるっぽいんだ。
今日も彼女がお見舞いに来てくれて、色んなこと話してくれて。まぁ、反応はできないんだけどさ。
彼女は面会時間ギリギリまで居てくれて、また来るねって、泣きながら帰ってくのが悲しくて。返事ひとつできないなんて情けねーな、俺。
ごちゃごちゃな感情とは裏腹に、無機質な機械音だけが一定のリズムで鳴り響いていた。
だから、一人でいたい
中学2年生。思春期真っただ中。
親に構われるのがなぜだかいつもより鬱陶しい。
いつもは言えてる感謝の言葉が、なぜだか今は喉の奥でつっかえている。
日常のなかで感じる、親へのちょっとした反抗心。
大人になる前の、大事な準備。
だから、今は一人でいたい。
澄んだ瞳
小学生になってまだ間もない男の子が、人を殺した。
彼の父親が浮気をしていたのだ。その事実を知った母親は怒り、悲しんだ。
次第に両親の仲が悪くなっていったとき、男の子は思いついた。
「おとうさんのおんなのひとがいなくなれば
きっとまたなかよくなる」
そう言った彼は、とても澄んだ瞳をしていた。