さよならを言う前に
私の友達がもうすぐ引越しをするらしい、ということを風の噂できいた。
引越し日はちょうど彼女の誕生日。たしか今年で20歳だっけ。
まだ引越しまではひと月ほどあった。私はそれまで彼女を色んなところに連れ回した。一緒に綺麗な景色をみたり、おそろいのブレスレットを買ったり。
そんなこんなであっという間に時間が過ぎた。
そして引越し前日。
「明日でお別れだね。」
「そうだね…。でも、東京の仕事に慣れてきたらこっちにも帰ってくるから!」
「えへへ、ありがとう」
「あ、もうこんな時間…!帰らなきゃ。
それじゃあ、また明日ね!」
「うん…!また明日」
「おっかしいなぁー…どこ探してもいない…。
もう電車の時間来ちゃうよぉ…」
時計とにらめっこをしながら、彼女は昨日会った友達を探している。
「もー、今度帰ってきたら文句言ってやるー!友達の門出も祝わずどこ行ってたんだーって。……ん?」コンっと、頭になにか落ちてきた。それは、あの子とお揃いで買ったブレスレット。
「なんでこれが…?ってあぁー!!電車行っちゃうぅ!!」
由紀はブレスレットの疑問を抱えながらも、それをしっかりと握りしめ駅のホームへ駆け出した。
その光景を、穏やかな表情をしながら見守っている子がいた。体はやや透けており、地面から少し浮いている。
「ずっとここにいたけど、やっぱり視えなくなっちゃうのかぁ…分かってたけど、いざこうなると寂しいや。」
そう言って、彼女は森の奥へ姿を消した。
8/21/2024, 1:22:26 AM