夢で見たことがある。
黄金のススキの原で走り回る少年を。
歩道橋を渡り、石垣に囲われた黄金のススキの原を走り回り最後に花火を見た。
そんな夢。傍に少女もいた。夢の中ながら片思いだった。それを見たのは小学生の頃か。
それから俺はおっさんになってしまった。恋愛はしたがそのススキの子に勝てる恋愛をしたことがない。
恋愛とは何か。思い出の何かなのか。未だ性の営みを感じたことがない。
ススキは何を象徴してたのか? 俺の心の原風景の一つだ。
42歳まで生きて脳裏に浮かぶのは
彼女が居たら人生変わっただろうか? という事だ。
彼女がいて結婚して仕事して子供出来てたら。幸せだったんだろうか?
絵に描いたような幸せはホントにあるんだろうか。
もう叶わない夢。取り戻せない人生。有りえない彼女。おっさんは手を伸ばす。掴めない明日に向かって。
まあ、高校生の時点で精神で中退してるから。そもそも全てが有りえない。
俺はこうなるべくして生きている。俺はこうなるべくして生きている。
全てを脳の奥にしまい込んで今日も生きる。
秋の夜長。物思いにふける良い季節。深夜の美少女アニメだけが心の拠り所。テンプレを脳裏の刻み。漫画とライトノベルを書くんだ。もうそれしか道が無い。
脳裏のアイディアだけが俺の能力だ。
僕は猫耳ヒロインに言った。
「君、可愛いね。」
彼女は照れながら言った。
「そうでも無いにゃ!」
僕はスマホを観て微笑む。スマホゲームは楽しい。
しかしこのひとときは意味があるのか? と聞かれると意味はないんだろうなあ。
若い時は一生懸命ゲームしたがその知識はもう通用しない。意味はなかった。
それでも俺は生きている。彼女も子供もいない。
その意味は。コレだろう。
少女は泣く。
なんで分かってくれないの?
こんなにあなたの事を思っているのに。
少女は不貞腐れる。
あなたはいつもそう。なにも分かってくれない。
僕は、そう。
くまのぬいぐるみだ。
少女を見続けて5年ぬいぐるみの僕は異世界転生の少年の魂が宿った。
この広大な大地。僕と少女の旅が始まる。
いつも君と一緒だよ。
小学生の僕と幼馴染の女の子。
秋の雨空それそれふれふれ。
公園の砂を長靴で削りダムを作って遊ぶ。
青い傘とピンクの傘。
あの淡い記憶を持って俺はオッサンになった。
アレは柔らかい雨だったのかもしれない。
懐かしい記憶。初々しい記憶。
ハッと思う。少女の顔を思い出そうとすると。
アレは妹だったのかもしれないと。
おっさんは青ざめた。